PHASE-670【かったい!】
「アクセル」
『ぬ!?』
咄嗟にバックステップ。
今までアクセルは前進のみの使用だったけど、こういった後退にも便利なピリアだ。
前足の一撃は俺が想像していたような、地を震わす強大な一撃ではなかった。
ボフンッ! と、煙の塊が地面に衝突したような一撃だった。
質量があるようでないような、なんとも見極めが難しい一撃。
確かめるには当たるのが一番なんだろうが、わざわざ一撃死の可能性があるダメージを受けるのは馬鹿のやること。
そもそも一撃を食らってやるなんて、毛ほども思ってないけど。
『小賢しいヤツ』
巨体が濃霧に紛れて、一瞬にして俺の眼界から消え失せる。
デカいくせに俊敏なヤツだ。
デカいのに音もなくってのは、流石はミストを冠するドラゴンなだけはあるって事なのかな。
『今度こそ!』
まあ、声を発するのはどうかと思うけど。
何のための隠密移動なのだと、ゲッコーさんがこの場にいたら説教コースだな。
背後からの一撃もアクセルで躱し、追撃の氷塊は切り払い、更に追撃の尾っぽによる攻撃は跳躍で回避。
「悪いけどな!」
こっちも攻撃だけを必死になって躱しているわけだから、少しくらいは攻撃を受けるという迷惑さを知ってもらわないとな。
可能ならばその痛みを持って攻撃を止めてもらいたいと願いつつ、落下に合わせて体を捻り、体勢を整えてから胴体部に一撃。
見事に決まるも、響く音は――ガキン……。
「かぁぁ、硬ぇぇ……」
剣身から伝わってくる衝撃で諸手が痺れ上がる。
「なんだよ岩かよこの鱗は! 硬いし分厚い!」
口から出た感想は、怒号によるもの。
とんでもなく硬質な鱗だ。
刃が入っている感覚はあるけども、それより先の肉の部分に斬り込むだけの膂力は、ピリアを使用した状態でも無理だった。
『ハハハハ! 馬鹿なヤツだ。如何にオリハルコンといえど、我が体には傷などつけられん』
言うだけあって本当に頑丈。
ピリアを使用した状態の斬撃がまったく通用しない事に、心が折れそうになる。
「もう一撃!」
今度は胴体より細い――といっても大木くらいはある首部分を狙う。
深く斬り込まないように手心を加えてってのが難しいけども。
「…………くぅ……」
そんな心配はいらない……。
胴体だけでなく首も硬くて分厚い。
すげえな……。巨龍って皆こんなに硬いのかよ。
間違いなく火龍装備が必須だったんじゃないのか。
『諦めて死を受け入れろ!』
「うるせえ」
――――巨体相手に回避を繰り返し、攻撃を続ける。
悉くが肉まで届かず、雑な連撃の振りともなれば鱗に弾かれてしまう。
流石に手が痺れ上がってきた。
柄を握る感覚がなくなってきている。
ちょっと一呼吸いれないと剣を落としてしまいそうだ。俺の握力とピンチ力がピンチな状態。
一呼吸を入れたくても氷塊による攻撃がちまちまと仕掛けられてくる。
最初はともかく、手が痺れた現状で切り払うと、叩き落としていた切り払いも甘いものになり、勢いが死んでいない破片がビシリと体に当たってくる。
大半が鎧に当たるからいいものの、細かいのが稀に顔に当たるとそこそこ痛い……。
『どうした? もう終わりか!』
反面、相手は攻撃を続ける元気がある。
巨体なのに姿を上手く消し、素早い移動からの側面、背後からの死角を突いた攻撃を仕掛けてくる。
懸命に躱せば、
『ちょこまかと! いい加減にしろ! フリーズピラー』
足元から伸びてくる氷柱の形は円錐。
立っている足元から次々と生えてくる氷の巨大タケノコ。少しでも動きを止めれば串刺しの運命。
『これは動きが鈍くなり、限定的になるな』
「なんで解説的なんだよ」
しかしミストドラゴンの言は正しいものだ。
実際に下方からの突き上げによる攻撃に、俺は意識を持って行かれている。
『ここだ!』
と、上方からは氷塊攻撃。
いいコンボじゃねえか。正直やばい。
「ファイヤーボール」
なんて頼りになる声だろう。
声同様に頼りになる火球が見事に氷塊へとぶつかり迎撃。
火球は氷塊を呑み込んで破壊した。
「「おお!」」
と、助けてもらった俺もだが、コクリコもしっかりと驚きの声を上げた。
それもそのはずだ。今までと違って火球が大きいからな。
ディザスターナイト戦でも火球のサイズが以前より大きくはなっていたが、今回のはそれ以上だった。
従来のソフトボールサイズだったのが、ディザスターナイト戦ではソレより一回り大きくなり、今回のはバレーボールサイズに変わっている。
シャルナが使用するファイヤーボールと同程度の大きさにまでなっていた。
ここにきてコクリコ、覚醒したかのような急成長。
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