PHASE-671【残念な人に向けるような視線はやめろ】

「見ましたかトール!」


「見たとも! 凄いじゃないか!」


「我が眷属であるミッターとオスカーの力です」

 このダンジョンで手に入れた、タリスマンが埋め込まれたシルバーの装身具を眷属とか言うところは、中二病を拗らせてるコクリコらしい。


 ――――俺もそんな名前をつけた眷属が欲しいな。

 火龍装備にタリスマンは付いているけど、別で欲しいな眷属。


『邪魔が入ったか』


「頼れる仲間だぜ!」

 わずかに焦りの混じった声に対して、ロングソードを振るう。

 増援による高揚からの一振りは、大上段からの全力。

 高揚が手の痺れに勝った最高の一振りだった。

 でも……、


「くそ!」

 如何な名剣であっても、伝説のドラゴンが有する硬質の鱗には通用せず。

 真鍮色の剣身は、鱗の下にある筋肉にまで届くことはない。

 俺の技量はまだまだ未熟。ベルの絶技には遠く及ばない。


「いや……トールは何をしているんです? アホなんですか?」

 ここでコクリコから気の抜けた声。

 しかもアホあつかい。こんなに頑張っているのに!

 この濃霧の中で巨龍相手に一人で戦っていたのに、なんでそんなに気に抜けた声で問いかけてくるんだろうか。

 しかもアホあつかい。ここは大事なところだから二回!

 窮地を救ってくれた感謝は大いにある。でもアホあつかいはどうなんですかね!


「見て分かれよ。激闘だよ」

 

「……はぁ」

 なんだそのさっきから続く間の抜けた声は! でもってなぜに俺を可哀想な目で見ているんだよ!

 現状、巨大なドラゴンと戦っているんだからな! 肩に力が入りすぎるのもよくないが、この状況での弛緩は駄目だぞ。


「おら!」


『ハハハハ、利くものか!』

 ええい! どうやったらこの分厚い鱗の奥にある肉にまで届くのか。

 このままだと、オリハルコンの剣身に傷が付かなくても俺の手がもたない。

 高揚によるアドレナリン分泌だってずっと続くわけないからな。手の痺れが再び勝ってくるのも時間の問題。


 痛痒をまったく感じる事もなく余裕なところは、流石は伝説のドラゴンってところか。

 というか、よく昔の冒険者たちは倒すことが出来たな。

 ミストドラゴンはそこまで強くないって話だけども、オリハルコンのロングソードでも鱗を突破できない時点で絶対に強いだろ。

 

 昔の冒険者たちは、アダマンタイトとか緋緋色金ヒヒイロカネからなる武具防具をパーティー全員が装備していたんだろうか? 

 ばかすかと伝説級の装備が、大量生産可能な黄金時代でもあったのか?


「おら!」


『ハハハ、無駄だ!』


「くそ! もういっち――――」


「ファイヤーボール」


「ぎゃ!?」

 突如として俺の前にて火球が爆発。

 実力向上と、眷属という名のタリスマンによる向上からなる火球――が!


「何してんだよ!」


「何をしているのかと問いたいのは、こっちですよ!」


『面倒くさい小娘が! 邪魔をするな』


「ライトニングスネーク」

 バリバリと電撃の蛇がワンドから顕現。

 今までと違って太くなった電撃が、宙をのたうち回れば、


『チッ』

 と、舌打ち。

 霧の中にある巨影が消える。

 そこでコクリコが俺に合流。


「何だよコクリコ」


「先に謝っておきます」


「――――はい?」


「ふんす!」


「ブフッ!?」

 突如としてコクリコが、俺の頬に平手を叩き付けてくる。

 目から火花が飛ぶ。同時に涙もぶわっと溢れ、玉となってキラキラと横に流れる。


「痛いよ!」


「痛みが有るのはいい事です。まずは良しとしましょう」


「なんだその反省のない発言は! 謝罪プリーズ!」


「先に謝っていますよ」


「確かに!」

 でもなんでビンタだよ。


「トール。周囲を見てください」

 ――…………濃霧ですが。

 見渡す限りの濃霧だよ。念のためにもう一度、見渡したけども、紛う方なき濃霧の世界だよ。

 白い絵の具を水に溶かしたような、十メートル先も分かりづらい視界。

 視程がすこぶる悪い状況で何を見ろというんだ。

 馬鹿にしてんのか!











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