PHASE-66【一体いつから、俺が勝てると錯覚した】
「よく防いだ。もう一つ」
カーンって木管楽器のような小気味のいい音とは裏腹に、木刀で受ける俺の手は痺れ上がるほどに痛い。
最近では、掌に立派なマメが出来て硬くなってきたってのに、ベルの一見、軽そうな振りとはかけ離れた衝撃で、今にも木刀が、手から離れそうだ。
「どうした? 攻めてこないな。皆が見てるぞ。このまま無様に地に伏すのか? 勇者様」
かぁぁぁぁぁ! なにその嘲笑。美人様のそれはある意味――――、ご褒美ですよ!
「――っと!」
「遅い」
俺の上段からの振り下ろしを容易く躱してくれる。自信を失うね……。
「諦めるのか」
弱気を見透かされているけども、この世界で弱気のままだと生き残れないからな。
思考を切り替えるぜ。
冷静になりつつ、初志貫徹。
目指すはロケットおっぱいだ。
飛び込んでやる。二点バーストを見舞ってくれよ!
「間合いへの踏み込みはいいな。肝の据わった入り方だ」
上段の構えだけが得意ってわけじゃないぞ。
出小手でけんせ――――い!?
「っだい!」
なん……だと……。
ここで、受け慣れているローキックだと……。
「全体を見ないからこうなる。実戦は試合ではなく、死合だぞ。剣だけに目をやりすぎだ。いや、剣ではないな……」
語末に進むにつれ、低い声になる。
怒ってるな。全体なんて見てないさ。こちとら端から胸しか見てないよ!
「本当に……この阿呆は」
ちょっと待って! ローキックが綺麗に決まってて、足がしびれてるから。我が大腿四頭筋の一つである、外側広筋が悲鳴を上げてるから! 動けないんです!
「視線が不快だ。馬鹿者!」
「いずまっしゅ!?」
ぶっは! これまた燃えるように熱い衝撃が頬に走る。
またもビンタをされるとは……。
――……虚しく地面に転がる俺がいる光景。
どうだい見てる皆。これが俺の実力だ。
マッチポンプの……、ペテン師の真の姿だ。
だが、言わせてくれ! ベルの前では、
「女の体に意識が行くとは、まだまだだな」
「くそ~、アバカンめ!」
「なんだ? アバカンとは」
「いや別に……」
小声で言ったつもりだったのに、聞こえてたか。
「どういう意味だ? 馬鹿にされた気分なのだが」
「次こそは頑張るみたいな意味だよ」
「嘘を言うな。アバカンめのめは、明らかに私に向けられた発言だろう」
くそ、鋭いな。浮気とかしたら、絶対に一発で見抜いてくるタイプだな。
「まじで頑張るって意味だから。次は頑張る。アバカン、アバカン!」
周囲にコール&レスポンスを求めるように、座った状態から、拳を高らかに掲げてアバカンと言えば、なんだ? と、隣通しで顔を見合わせながらも、首肯し合って、
「「「「アバカン、アバカン――――」」」」
皆がのってくれた。これで逃げ切れるはずだ。
「ふん、まあいい」
よっし! 逃げ切った! でもって、
「これからも稽古をつけてくれ。強くなりたい」
本心だ。この時だけは、エメラルドグリーンの瞳を凝視だ。
届けこの思い。
「――――嘘はないようだな。私は虚言と大言を嫌う。言ったことを実行する者だけを信用する。信用して欲しければ強くなることだ。過酷な選択をしたと後悔しない事だな」
受けてくれるようだな。
ベルに師事を受けるのが、強くなる一番の近道だろう。
下心もあるけどな。仲良くなりたいからな。頑張って鍛えるさ。
容易く負けても、周囲は歓声を送ってくれるからね。皆いい人たちだな。勇者が負けた! って、騒がないからな。
まあ、ベルの強さを知ってるから、仕方ないとも思ってるんだろうな――――。
ベルとの腕試しにもなってない腕試しを終えて、未だに足が痛いので、あぐらでその場に座り込んでいると、ぬっと俺の前に現れるのは――、風になびくバンダナ。ゲッコーさんだ。
炯眼にて俺を見下ろしてくる。怖いんですけど……。
「――――アバカン――――なのか」
「え!? あ! はい! アバカンです!!」
「そうか――――、94か」
「はい!」
「――――最高だな!」
「でしょ!」
ゲッコーさんてば柔和な笑みですよ。
アバカンで理解してくれるところは、流石は現実世界を元にしたゲームキャラだな。
二人して口角は上がり、お互いにサムズアップだ。
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