PHASE-67【命名】

「で、どうするんだ」


「何をです?」

 ゲッコーさん。主語がないと困ります。

 昨日の外側広筋の痛みを引きずっている俺は、擦りつつ返答。


「ギルドだよ」


「出来たんでしょ? いまいち結成したって実感はないですけども」

 来て早々に、冒険者は皆、戦いに参加してたからな。

 結成自体を明言していないしね。


「こういうのは後々の混乱も考えて、会頭が正式に結成発言をしたほうがいい」

 と、ベルも言ってくる。

 いつもの小屋の、いつもの円卓で、紅茶を注いでくれながら。

 今回は俺が敵大将を倒したご褒美なのか、最初にカップを俺の前に置いてくれた。

 これは地味に嬉しい。

 昨日はビンタされたけど……。


「ふう~」

 飲み終われば、昨日ここに運ばせたソファーに横になる。

 この木造平屋のおんぼろ小屋には全くもって似合わない、瀟洒なソファーの寝心地は最高だ。


「おい、寝てないで考えろ」

 鋭く凛としたベルの声。

 ふむん――。

 やおら起き上がり、


「やはり名前が無いと締まらないよね。名前があるからこそ、その旗の下に集おうとするわけだし」


「然り。名というものは重要です」

 先生が続く。

 名前か~。なにが良いんだろうな~。

 折角のギルドだからな。格好いいのが良いが、中二病をこじらせると、後世で【ないわ~。何このネーミングセンス】とか、歴史家に笑われそうだからな。


「シンプルであって、俺たちを現すような。人々に覚えてもらいやすいように、長ったらしいのは駄目だよな。忌憚の無い意見がほしいね。ベルはどんな名前が良い?」

 話を振れば、おとがいに指を添えて考える。

 その動きでアバカンがぐっと動くのがエロいです。


「プロニアス遊撃隊というのはどうだ?」


「却下」


「な!?」

 にべもなく提案を破棄してやった。

 プロニアスって、お前のゲーム世界の帝国じゃねえか。

 なんで俺のギルドが、帝国に組み込まれなきゃいけないんだよ。


「ゲッコーさんは」


「そうだな――」

 紫煙を燻らせつつ――、


「アンダーヘブンはどうだ」


「却下!」


「なに!?」

 それは貴男のゲーム内の組織でしょ!

 ゲッコーさんが指導者になっちゃうでしょうが!

 お~れ。このギルドの会頭は俺!


「だったらお前が考えれば良いだろう」

 え? なにベル。ふて腐れてるの? プロニアス遊撃隊にどれだけの自信があったんだ? 何人なんぴとも納得しないギルド名だろ。遊撃隊って時点でメインじゃないし。

 プロニアスってなんだよ。と、ツッコまれて終わりだから。


「そうだな。お前が考えればいい。会頭なんだから」

 え? なにゲッコーさん。貴男までふて腐れてます? 

 どんだけ自分たちの案に自信があったんだよ。ちゃんちゃらおかしいね。


「主。名を決めましょう」


「トールのネーミングセンス。是非とも俺たちの手本になってくれ」

 完璧にゲッコーさんは拗ねてるじゃないか。ベルまで頷きで返してるし。

 確かに、忌憚の無い意見をと言ったにもかかわらず、冷たくあしらったのは悪かったけども。

 ――――格好いい名前って思い浮かばないよな~。

 俺の名前とかを入れるか?

 いやだが、それは恥ずかしいな。

 この世界に来てからというもの、名前は亨からトールで確定した。

 そう言えば、以前にゲッコーさんがトールでいいじゃないかとか言ってたな。雷神と同じ名だからって。


「雷神とか入れると格好いいですかね」


「え、いいんじゃないか」

 え!? あんたが雷神みたいだな。って言ったんじゃん。

 愛想なさすぎですよ、ゲッコーさん。


「あれか? お前の名前が、お前の世界の神話に出て来る雷神だという話からか?」

 そうだよと、首肯でベルに返せば、嘲った口角の上がり方を見せてきた。

 で――、


「雷神ではなく変人の間違いだろう。胸しか見ないしな」

 ああそうさ! 俺はお前のアバカンばかりを見てましたよ。そのせいで、未だに俺の外側広筋がズンズンと、脳内に低音を響かせてるよ!


「良いではないですか。雷神。主の名と、その雷神の名が一緒となれば、それを利用して、天より降臨した勇者は雷神であると広めれば、更に人々の関心を得られますからね」

 先生……。どこの世界に、ローキックくらってビンタされる雷神がいるんでしょうか。

 でも、流石は忠誠心がMAXなだけあって、先生はいつも俺の味方。


「雷神の特徴は?」

 継ぐ先生。

 俺は、雷を発生させる金槌の事を伝えると、


「ふむふむ。雷神の元に集う者たちであるギルドメンバーは、言わば、主の金槌。その者達に敬意を払ってのギルド名というのもいいでしょう」


「じゃあ名前は、雷神の金槌にします?」


「ここは戦槌とした方が響きがよいかと。戦う者たちが集うのですから」

 雷神の戦槌か――。

 ギルド名としてはそれっぽいといえばそれっぽい。


「あ、じゃあ雷神を雷帝にしてもいいですか?」


「それは主の自由です」

 雷神を雷帝。素直に雷神でいいのに、あえて帝にするところが中二臭いよね。だが、それでいい――――。



「俺たちのギルドの名は、雷帝の戦槌と定める」

 翌日、ギルドメンバーを小屋の前に集め、俺は壁上に続く階段の踊り場に立ってからギルド名を宣言。


「「「「おおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」

 勇ましい声が一斉に上がる。

 命名までの経緯を先生が説明した後の宣言だったから、皆、満足だ。

 名が決まると、結束力も強まるのか、隣に立つ者たちと手を握り合うメンバー。

 組織の視線を一方向に向けさせる事の大事さを知った。

 その為には、名をちゃんと付けないといけないという大事さも知った。


「にしても、会頭は雷帝だったんだな。天から降臨したのは知ってたが」

 って、カイルの発言に皆も続いた。

 またも捏造である……。

 早急に実行しなければならない事案が発生した。


「マナを感じ取って、雷系の魔法を至急、覚えないといけいな……」

 小声で独白すれば、踊り場に立つ俺の後方では、


「「そうだな。雷帝様」」

 提案を却下されてた事を未だに根に持っているのか、二人が俺の独白をしっかりと耳にして、小馬鹿にした笑みを浮かべていた。

 腹立つ!

 腹も立つが、ようやく俺たちのギルド、【雷帝の戦槌】が今日これより本格的に始動するわけだ。


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