PHASE-275【ご対面、絶望の使者】
そんな俺の考えなんてつゆ知らず、
「遠いところからよく来てくれた。皆、辛い日々を送っただろう。だがこのベルヴェット・アポロが店主として、君たちと共に素晴らしいお店作りに励むことを誓おう!」
いや、魔王討伐を誓ってくれよ……。
「「「「はい。よろしくお願いします」」」」
「うむ。皆、快活のよい返事だな。期待しているぞ。今は鋭気を養ってくれ。とりあえず、今晩は子供たちはゴロ太と共に私とお風呂に入ろう。そして一緒に寝ようじゃないか」
ああ、間違いねえ……。
たるんだ笑顔で理解できた……。
ベルはちょろインじゃなくて、紛う方なきポンコツだ……。
プロニアス帝国最大戦力である美人中佐様は、可愛いものを目にすると、途端に駄目になるポンコツ中佐ですわ……。
「本当によくやってくれたぞトール。よくコボルト達を――子供たちを救い出したな。それでこそ勇者だ」
「ああ、まあクエストの中身はまったく違ったけどな」
「しかし許せん。こんな愛くるしい子供たちにまで、過度な労働を強いらせるとは! 魔王軍め! やはり私もお前についていくべきだったな」
ああそうだよ! ベルが来てくれてたら長々と進行していたものも、一瞬で解決したってのに!
小説で例えるなら、戦闘開始から一ページくらいで終わっただろうさ。
――――ベルヴェットは、手の込んだ造形からなる護拳に囲まれた柄を握り、鞘よりレイピアを走らせる。
翠玉の双眸が捕捉する醜悪な巨人に一歩駆けたと思われたその次には、醜悪な一体の首は宙を舞う。
続いて一体、最後の一体と、等しく頭が宙を舞い、首から下が重々しい音と共に地に伏していく。
舞う頭の顔の表情は、何が起こったか分かっておらず、斬られる前の表情と変わらないままであった。
――――みないな感じでさ。これで終わりですわ。一ページくらいじゃなかったわ。すぐ終わるわ。
これが炎を使えるバージョンだったら、バッと振ってボッと燃やすって表現だけで終わるね。
――……なんだコイツ。
本当におそろしい存在だなと、つくづく思った。
正直、トロールよりも、俺としてはダイヒレンってGの方がしんどかったけどな。
あんな時こそベルの炎が欲しくなるってもんだ。
洞窟内で炎を出してもらえば、あの心胆を寒からしめる姿も見なくて済んだんだからな。
帰りは帰りで、二頭立ての幌馬車の中は、ダイヒレンの亡骸でびっしりだったし……。
馬車に乗れなくなったタチアナは、約束通りダイフクの後ろに乗せてあげたから、俺は男として満足したけども。
ギュッとしてくれたからね。
「素材も大量だったとか。ギムロン殿が喜んでいましたよ」
「ああ、はい……」
先生は俺の心を読んでいるのかな? っていうくらいのタイミングですよね。
「大層によい素材とのこと。ぜひ見てみたいですね」
余計なことを言わなくていいですよ。先生……。
「じゃあ、ボクが持ってくるよ。お手伝いしたい」
余計なことは言わなくていいんだよ。ゴロ太……。
トコトコと応接室から出て行けば、これからお世話になるのだからと、子コボルト達も皆して退室し、ゴロ太の手伝い。
皆なんといい子で優秀なのだろう。と、ご満悦のベル。
反対に俺の表情は、今から来る存在のせいで暗くしかならない。
――――しばらくすれば、
「持ってきたよ~♪」
と、通路の方から可愛い語調の渋い声が聞こえてくる。
「うむ、いい子だ」
ゴロ太の一挙手一投足を褒めまくるベルだけども、こいつ帝国軍人である前に乙女だからな……。
今から持ってくる絶望の使者を目にすれば、白皙が青ざめる未来しか想像できない。
トタトタと複数の足音が近づいてくる。さながら恐怖へと誘うカウントダウン。
真っ先に絶望の使者を目にしたのは、通路と応接室の扉の境界線に立つマイヤだ。
やはり彼女も女性だ、顔が引きつったものになっている。
触れないようにとばかりに、華麗にゴロ太たちに道を譲るマイヤの動きは、正に優秀なローグだ。
「…………んっふ!?」
ゴロ太の姿が見えた瞬間。ベルが聞いたことのない変な声を出し、上から引っ張られているかのような綺麗に伸びた姿勢が仰け反っている。
光を反射する美しい白髪もそれに合わせて大きく乱れるが、俺としては、パツパツの胸ポケットのボタンが、仰け反ったことで弾け飛ぶんじゃないかと、そこばかりを凝視していた。
絶望の使者を目にしてこのリアクション。
やはりベルは軍人である前に乙女だった――――。
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