PHASE-492【青白き赫奕】

「ふい~」

 ――――柑橘水が美味い。

 傷のない門を前にして小休止。

 水筒の中身はぬるいけども、それでも喉は十分に潤う。

 柑橘の優しい酸味が、体と頭をスッキリとさせてくれる。


「さて、この建物の広さから考えて、この門を潜れば、最終局面といったところだろう」

 最後の一口を飲み干す時の俺の喉は、ゲッコーさんの発言を耳にして、大きくゴクリと動いた。

 生唾を飲むといった感じではなく、やってやるぞという気概からの嚥下。

 ゲッコーさんはマガジンを装填しつつ、これから要塞における最終戦に突入する決意とばかりに、マガジンは強めに音を立てて装填していた。

 

 平坦で一本道からなる要塞。

 入り組んだ道を作る必要がない。

 外敵による襲撃などないから。

 あったとしても、精鋭のレッドキャップスにより要塞は守護される。

 ――――そういった自信によって守られていたんだろうが、こっちにいる面子はその自信をことごとく打ち砕くほどに強かった。

 

 荘厳な門の周囲では、俺たちが倒した者達の亡骸が転がる。

 意識的に感情を遮断しているからこそ、こんな場所でも一息入れることが出来るようになっている。

 斬撃による死体は、殆どが俺が実行したもの。

 ベルの斬撃は炎によって灰燼になるからな。

 死死累々の通路は、主に俺が作り出した。

 残火によって斬り屠るのも当たり前になってきた。

 そして、これまでに何人の亜人や悪魔の命を奪ってきたのか、分からなくなっている。

 始めてゴブリンの命を奪った時からしたら、随分と変わったな。

 いよいよ俺も、戦場に立ち続けたことで、命に対する価値観が、常人のものからかけ離れてしまったようだ――――。



「しかし巨大な門ですね」


「ノックしたら開けてくれるかもな」


「ファイヤーボール」

 なんとも物騒なノックだな。

 ま、当然ながらそんな魔法で開くほど柔い門ではない。

 重厚な黒光りする金属による門。

 大人が数人でようやく片方を開けられといったものだ。

 ここまできて籠城のように閉ざされても困る。

 無駄に時間を浪費すれば、要塞外から援軍が突入してくるってのも考えられるからな。

 手早く終わらせたいところ。


「マスターキーをお願いします」


「分かった」

 門へとC-4 を仕掛けるゲッコーさん。

 ペタペタと貼り付けていって、安全な所まで離れつつ、更に念を入れてシャルナにプロテクションを唱えてもらう。

 ハンドグリッパーのような形状の無線起爆スイッチを握れば、カチリといった音の後に、大きな爆発音が前方から爆煙と共に発生。

 オーガやトロールが通れる広い通路はありがたい。一帯が煙で充満するって事はなく、視界は良好ではないが悪くはない。

 それにC-4だと、離れた場所で起爆することができるのがいい。

 開いたと同時に、敵から集中砲火を浴びなくてすむ。


「とっ」

 想像通り、門に穴が空いたと同時に、その穴から矢や魔法が飛んできた。

 距離をとっていたから問題なし。加えてプロテクションのおかげで相手の攻撃を余裕をもって見る事が出来る。

 魔法と矢による攻撃が小康状態になったところで、


「コクリコ。打ち返してやれ」


「任せてもらいましょう」

 貴石の色は赤く輝く。

 コクリコ最強のライトニングスネークではない。少しは考えることを覚えたコクリコが使用する魔法は――、


「ランページボール」


「「そうだ。それが最適解だ」」

 まさかのゲッコーさんとシンクロする。

 火球が門に空いた穴から侵入していけば――、


「煩わしい!」や「小賢しい」や「ああ! 鬱陶しい」などという悪感情が、穴の向こう側から聞こえてくる。


「攻め時! イグニース!」

 炎の盾を展開して猛ダッシュ。

 後方から縦隊にて皆がついてくる。

 

 穴から滑り込むように室内へとお邪魔すれば、護衛軍がわずかながら混乱していた。

 本当にわずかだ。冷静にプロテクションを使用している者もいる。

 だけどもここで俺たちが侵入すれば、冷静だった者達も浮き足立つ。

 ここまでわずか六人の手勢に、言い様にされているから仕方ないだろう。

 護衛軍が脅威対象に身構える中、俺は室内を見渡した。


「ここだけ全然違うな」

 壁には青白く発光する、人間と同じくらいのサイズからなるクリスタルがいくつも設置されていて、付近の円柱も同様に輝く。

 クリスタルや円柱には管が巡っており、この室内で最も目立つ、最奥にある大きな球体が置かれる、台座へと繋がっていた。


「幻想的だな」

 戦闘中だというのに、ついつい魅入ってしまった。

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