PHASE-493【初手で吹っ飛ぶ】

 クリスタルが輝くファンタジー感に、方々から台座に繋がる管は、近代的な光景。

 それらがミスマッチせずにうまく共存している。

 あの台座に乗っている球体は何なのだろうか?

 巨大な球体状の金魚鉢のようにも見える。

 球体状の中はクリスタル同様に青白い光を放っており、無数の燐光が、球体の中で揺らめいているのがスノードームのようで、何とも幻想的なものだった。


「おい」


「分かってるよ」

 魅入っていても、周囲に対して神経を研ぎ澄ませることは出来ている。

 ベルに注意を受けなくても、接近してくる敵に対しての警戒はしている。

 迫れば直ぐに、残火で屠るだけの動作準備はしているつもりだ。

 

 高順氏の槍の一突きを見た時くらいから、相手の行動がよく見えるようになってきている。

 動体視力も向上しているし、ラピッドのおかげで反応も早くなっているから、十分に後出しでも対応できる。

 ラピッドの上に位置するピリアって、きっと脳で考えた事が神経を経由しないで、直に四肢なんかの箇所に伝達しそうだよな。

 コンマ何秒の差なんだろうが、その差が戦いを大きく左右させるからね。

 ブーステッドがまさにそれだったけども、まだまだ俺の実力ではあつかえない技だから当分は封印だな。

 などと考えが至ったところで――、


「随分と余裕だな。勇者よ」


「!?」

 ビリビリとやばいのが空気を伝って届いてくる。

 今までの思案をかき消して、一気に危険だという警戒が頭内から発信される。

 明らかに分かる。コイツはヤバイ……。マジでヤバイ……。

 相手の行動が見切れるようになってきた。などと物思いに耽っている場合じゃない相手だ。

 ゲッコーさん並みの渋い声が、如何にも強者ってのを醸し出しているし、周囲の護衛軍にも緊張が走っているのが分かる。

 全員、背筋が伸びているし、混乱していた面々もその声で即座に収拾している。


「出てきたらどうだ」

 一度、深呼吸を行ってから、声調を整えて問うてみる。

 圧を感じる声は受けても、姿は見せてくれない。


「では――」

 と、返ってきたところで、


「?! かっ!?」

 いきなりの衝撃が俺を襲う。

 ――…………床を派手に転がって、門と隣接する壁に体がぶつかっていた。

 頭の中は疑問符だらけだ。

 なんだろうか今の衝撃は? 状況が状況なのでゆったりとは考えられない。

 俺は吹き飛ばされた。で、床を派手に転げ回ってから壁にぶつかり止まった。

 タフネス発動時の火龍の鎧の加護のおかげで、衝撃はあっても痛みは……、有る。

 しっかりと有る。

 衝撃によって、俺の体はいたるところが打撲したような痛みに襲われる。

 車にはねられるとこんな感じなのだろうか……。


「ヒール!」

 いきなり俺が吹き飛んだから、あっけにとられていたシャルナだったけど、はたと我に返ると、同時に回復魔法を唱えてくれる。

 遅れてランシェルもファーストエイドと、ダブルで回復魔法を受ければ、素晴らしきかなファンタジーの世界。

 痛みが一瞬にして体から、すっと抜けていった。


「なんだ……よ」

 痛みは消えたけども、揺れる脳は当然、回復していない。

 ぐらつく視界を修正しようと、頭を強く振って正面を見やる。


「初めまして――だな。勇者」


「初めまして」


「中々に強力な供回りだな。これだと我の部下、護衛軍でも止める事は難しいはずだ」

 俺の前ではベルとゲッコーさんが、相手の追撃を遮るように立っていた。

 流石にこの二人が壁となれば、突破する事は出来なかったようだ。


「白銀のフルプレート」


「デスベアラ―・フサルク・アンスールという」


「大仰な名前だな。デスベアラー。死の運び手とか怖すぎるぞ。親はどんな思いでそんな名前にしたんだよ」


「我が名は、我らが偉大なる聖祚せいそにより賜ったものだ」


「その聖祚ってのはヤンキーみたいだな」


「ヤンキー? 意味は分からんが侮辱と受け取る。なので、愚弄は許されん」

 白銀のフルプレートと同色の兜は、鷲や鷹の嘴のような形状からなるフルフェイス。

 後頭部には膝裏まで届く、金色の馬の尻尾のような飾り。

 目の部分は、細い横線が一本入ったようなデザイン。

 その奥から俺を凝視する赤い輝きは、他のレッドキャップスと変わらない。

 違うとすれば――――、


「とんがり帽子じゃないんだな」

 コイツのはベレー帽タイプ。

 ゲッコーさん達のような軍人に似合うようなタイプだ。

 

 表情を窺い知ることが出来ない兜。

 全身を守る白銀の鎧。

 そんな装備なのに、頭に赤黒いベレー帽とか、アンバランスすぎるだろ。

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