PHASE-1177【アポ・メーカネース・テオス】
「では私はここから去らせてもらう。最後にだけど――」
言えば俺へと接近してくる。
身構えたいけども、体はまともに動いてくれない。
まあ、ここで殺すって事はこの流れからないのは分かっているけど、勇者という称号を持つヘタレな俺はどうしても身構えたくなる……。
「カルナックのクズは途方もなく強いわよ」
「お、おう……」
身構えることも出来ないし、ゴブリン達も止める事が出来ないまま、デミタスの顔が接近。
俺にとっては脅威の存在だけども、絶世の美人でもあるので鼓動が早鐘を打ってしまう。
恐怖と美人の接近による緊張との合わせ技だから、心臓が今にも爆発しそうです……。
「お前は不思議な力を使う。そこにも利用価値がある――いえ、その部分だけに価値があるわね」
対面する相手に深手を負わせることが出来たのも実際にその力だからな。
反論は出来ないよ……。
「まず奪うとかって事は考えないんだな……」
って言うことしか出来なかった……。
「奪って扱えるのならば奪うけど」
怖いことを言うね……。
「俺専用だから」
「真実か虚言かは推し量らなければならないけど、今はその発言を信じてあげましょう」
「ありがとう」
実際、俺しか扱えないのは本当なんだけどな。
召喚したモノを扱える人物がいればそれを委ねることも出来るけど。
ゲッコーさんやS級さん達が最たる例だな。
「礼を述べるのはむしろこちらかもね。いい経験もさせてもらったし」
感知ばかりに頼る事を今後はしないって事なのかな?
「それよりも、お前にクズを追い詰めるだけの力はあるのしら? 無論、お前の地力という事ではないわよ」
「ぬぅ……」
悔しくても反論できないのが情けない……。
俺にしっかりとした実力があれば、不意打ちのような戦い方で深手を負わせる以外の戦い方も出来たわけだしな。
「あるのかしら?」
「あるよ」
「では――それを見せなさい。こちらの情報提供の対価としてね」
グイッと更に至近されれば童貞はたまらんです。
鼻先同士が触れそうな距離の美人は強烈な魅力だよ……。
フル・ギルなんて使用されなくても言うことをきいてしまいそう。
「み、見せるから離れてくれ」
「分かった」
言えば直ぐに距離を取ってくれる。
以外と素直なところもある。
俺に対して許せない恨みがあるのは分かっているけども、デミタスって仲間とかには優しいタイプなのかもな。
ここで俺を守るゴブリン達に力を振るう事をしないからな。
アルスン翁のこともちゃんと殿をつけて尊敬もしているようだし。
もっと違う出会い方が出来れば良かった人物だ。
「よっこらせっと」
ゴブリン達の助力を得て立ち上がる。
未だに足はガクガクだけども、補助があれば歩ける程度には脱力も回復している。
ポーチに収めたプレイギアを取り出したところで――チラ見。
「奪う事など考えていない」
敵だからね。そこは警戒を怠らないですよ。
お互い弱っているとはいえ、俺の方が圧倒的に体ガクガクだからな。
申し訳程度にゴブリン達が俺の周囲を守ってくれているのはありがたい。
やばくなったら素直に逃げる素敵な連中だけど……。
「さてと……」
開けた場所へとプレイギアを向ける。
俺の一挙手一投足を見逃さないとばかりにデミタスは凝視してくる。
不穏な動きがないかを警戒しつつ、俺は口を開く。
――――召喚したい存在の名を発せば、大きな光が発生する。
一帯を照らす光源が徐々に弱まり――その場に現れる存在を目にしたデミタスは呆気にとられていた。
今までの眼光が鋭いクールビュティーな姿とは違い、目を丸くしてポカンと口を開いた表情。
そして――、
「…………アポ・メーカネース・テオス……」
と、惚けた感じで口からこぼす。
対する俺は――、
「なんて?」
聞いたこともない言葉に疑問符を浮かべて問うも、デミタスは棒立ちで見上げるだけで、俺に返事をしてくれなかった。
ただただ召喚されたモノを凝視しているという姿。
でもってゴブリン達は俺が召喚したモノを目にして一目散に逃げ出していた。
本当に……頼りになる素敵な護衛である……。
脱兎の如く駆け出す動きは最早、才能だよ。
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