PHASE-160【アセットバリューがパネェ】

「トールよ、装備の刀はどうした? 先日も気にはしていたのだが」

 王様と家臣団がギルドハウスにおこしだ。

 

 俺は昨日の打撃で痛む箇所と、三種の神器を失った虚無感でやる気がないというのに、元気な笑顔でございますね。

 王様の側に立つ、心の友ダンブル子爵には、素敵な装備を活かすことが出来なくて申し訳ねえです。


「あれ、言ってませんでしたかね。火龍を救い出す時に、終の秘剣もどきで折れちゃったんですよ」


「終の秘剣? よく分からんが、勇者の一撃なのだから、相当の威力なのだろうな。となれば、新たに刀を用意させようか?」


「結構です。火龍から鱗をもらってるので」


「「「「なんと!?」」」」

 王様と取り巻きに加えて、ギルドメンバーもシンクロする。

 

 火龍の鱗と聞いてこのリアクション。どおやら相当のお宝のようだ。


 ――なかなかにざわつきが収まらない。


 家臣団の面子で信頼出来るナブル将軍と、俺の心の友であるダンブル子爵に問うてみる。

 

 二人は顔を見合わせると、代表して将軍が口を開いてくれた。


「四龍の鱗を手に入れる事が出来るのは、力を認められた者のみ。つまりは、この世界を調律する存在に認められるということ。こんな事はあり得ないのです。そもそも出会う事が出来ない存在なのですから。いくら囚われていたからと言っても、それを救い出す事も本来は不可能。可能にする存在だからこそ得られたのでしょうな」

 鱗の存在に、興奮気味の将軍。喋々と発する言葉は熱を帯びている。

 

 一息いれるところで、交代するかのように、心の友が続く。


「伝説の存在でもある四龍の鱗。鱗一枚で国が買えますぞ」


「マジで……」

 おいおい、畳一畳分の鱗で国が買えるって……。

 一平方メートル、ウン千万の銀座の地価がしょぼく見えるぜ。


「邪な事は考えるなよ」


「分かってるよ」


「本当か?」


「本当ですとも」

 小声にてベルに釘を刺される。

 まったく、俺の目が$マークにでもなっていたのだろうか。

 

 というか、現状この世界、貨幣に価値もなければ、国を買えてもどん詰まりだがら意味が無いんだけどな。

 装備にするのが現実的だ。


 なので――、


「さっそくだけど、鱗を武具に加工できる職人を紹介してほしんすけど。もちろん装備が装備なんで、国一番とかにお願いしたいですね」

 見合った存在に頼みたいよな。


「う、む……」

 むむむ? どうした王様? 表情が芳しくないぞ。


「国一番を呼びたいのは山々だが……」

 ――……ああ……、このパターンね。


 RPGでも、伝説の素材が手には入ったら、今度は作り手を探せってやつね。


「でも、この王都には、いまではドワーフだっていますよ。問題ないでしょう」


「いや、いくらドワーフでも難しいかもしれない。加工するための場所はいままで閉鎖していたが、荀彧殿の助力に、王都を訪れているドワーフ達の活躍もあって、工場こうばの稼働は再開したんだがな」


「いい事ですね」


「有りがたい事だ。だが、鱗加工の技術者は、ドワーフより人間の方が秀でているのだ」

 ――――ドワーフは主に地下で鉱物を使用した加工技術に秀でている。

 ミスリルなんかが代表的だ。

 

 エルフもミスリルなどの鉱物加工に秀でているが、それ以上に、植物などを利用する事に秀でた存在らしい。


 人間は、両種族には及ばないが、鉱物、植物の加工技術に秀でている。

 だがそれ以上に、生き物の外皮や骨を加工するという技術に置いては、両種族よりも高いそうだ。


 ドワーフはともかく、エルフは気位が高いからか、生き物の死骸などから武具を加工するという発想もなければ、嫌悪の感情もあるようだ。


「では人間の職人を紹介してください」


「うむ。ここより北西に、クレトスという小さな村がある。そこの職人ならやってくれるだろう」


「魔王軍に襲われてないんですかね?」

 優秀な職人がいると知れば、強力な武具を作らせないために、魔王軍が侵攻してそうなんだけど。


「その村は代々、王族専用の湯治場でな。村の存在を知る者は少ない」

 湯治場――、温泉のことか。


「だが、村は瘴気によって汚染されてしまっているだろう。火龍の力によって、一帯の瘴気は浄化されてはいるが……」

 今ごろは、凶暴化した人間が跋扈しているわけか。


 じゃあ、行っても意味が無いのか?


 ――――否! 断じて否である!!


「この目で確認する事は大事だ! 希望は手ずから手繰り寄せるもんだ!」


「言うようになったな。感心したぞ」

 だろ、ベル。


「不快な目だ」

 おっと、美人中佐の頭から足先までなめるように見てしまったよ。

 だって、湯治場、つまりは温泉。

 温泉って聞けば――、ね~。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る