PHASE-242【出会いは転生してすぐだけど、初めてだね】

「余裕なのもいいが、躱さんとな」


「ああ、うん……。ありがとう」

 俺のマントを無理矢理に引っ張ってくれたギムロンのおかげで、俺はトロールの一撃から難を逃れた。

 本当に危ない一撃だった……。

 すげえ膂力だ……。人間の比じゃねえよトロール。

 強えじゃねえか……。


 ――……ん? ちょっと待てよ……。よくよく考えると、俺はトロールと戦ったことがあっただろうか?


 ――………………うむ。ない……。

 異世界に転生してから今までを思い返してみるが――――。うん! ない!

 

 そうだよ。俺はトロールと戦った経験はない。トロールがオークの軍と共に王都に攻めてきたり、砦で門番してたのを目にしただけだ。

 だって仕方ないじゃない。迫るトロールも。門番のトロールも。チートなロケットおっぱい美人様が一瞬で消し炭にしたんだもの。

 たったの一振りで、骨も残さず消し炭ですわ。


 他にもホブの軍勢にいたのは冒険者たちの矢を一斉に浴びてたな。


「まったく、あっけなさすぎるんだよ」

 チートがいると戦闘はすこぶる楽になるが、おかげで相手の膂力が分からないっていう欠点があるな。こんな状況だと特に顕著だ。


 眼前で暴を振るうトロールにプレイギアを向けての情報収集。


【カトロア】


【種族・トロール】


【レベル27】


【得手・膂力・自己再生】


【不得手・――】


【属性・支配】


 なるほどな――――。

 レベルが27か。明らかに駆け出しである黒色級ドゥブが戦う相手じゃない。

 

 このレベルで不得手が表示されないのは、弱っちいからなんでも通用するってのとは反対の意味合いだろうな。

 

 はあ……、コボルト退治とは一体なんだったのか。


 他の二体も、カトロアってトロールと同じようなパラメーターだ。


 一体だけでも黒色級ドゥブじゃきついのにそれが三体。

 町の代表であるカリナさんは嘘のクエストを出したのかな?

 これは事実を確認次第、コボルトではなくトロールを対象とした報酬を支払ってもらわないとな。

 もちろんトロールの存在を秘匿していたらの話だが。クエストを依頼した当人も知らないとも考えられるし。


「こりゃ~ちときついの……」

 光沢ある赤色級ジェラグの認識票をぶら下げたギムロンの弱々しい声音。


「新人たちを引き連れて、三体のトロールだからな」

 続くクラックリック。


「で、そっちは無事なんだよな」

 剣をトロールに向けて堂々と立ってる時点で無事ではあるだろうが。


「はい!」

 先発組で唯一の男であるライから快活のよい返事。

 真新しいブロードソードを正眼で構え、トロールと対峙。


「当然でしょう。私がいるんだから」

 と、ファイアフライで空洞内を照らすクオンが得意げである。

 なんかリア充しているよね。幼馴染みパーティー。


「まあ、私もいますしね」

 無い胸を反らすコクリコ。


「だから不安なんだけどな」

 ポツリと漏らせば、


「なにおう!」

 真実を述べただけなのに、コクリコはトロールではなく俺にワンドを向けてくる。

 生意気なやつだ。お前が俺に狩られる側だというのを分からせないといけないな。


「来ます」

 クオンの発言に従い回避する。

 大地を穿つかのような棍棒の一撃が、俺とコクリコの間に叩き付けられた。


「ひゅぅぅ」

 冷や汗ものだ。

 振り下ろされる棍棒の風切り音。殺意を音で表現したらきっとこんな風切り音なんだろう。


 脅威になるのは棍棒の強烈な一撃だけではない。電柱サイズのソレが地面にぶつかれば、岩肌からなる地面部分が砕け、つぶてになって周囲に散る。

 さながら散弾だ。あれに当たるだけでもダメージは大きいだろう。


「ありがとうクオン」


「はい」

 スタッフからやや離れた所にある、光源となっている光球が、先ほどよりも強さを増し、光球がトロールの目の前まで飛翔していた。 

 

 光球がトロールの視界を遮ってくれた事で、丸太の棍棒による一撃は、目標である俺たちから外れた場所に振り下ろされたわけだ。

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