PHASE-241【おいゴラァ! 目的と違うじゃねえか!】

「コイツは返すよ」

 新しく掘られたという洞窟は広い。さっきまでとは別物。刀でも十分に振ることが出来る。なのでミスリルのショートソードをギムロンに返そうとすれば、


「まだ持っとれい。あって困るもんじゃないじゃろ」

 言は正しいので、有りがたく借りておく。


 ミスリルはベルトに挟んで、ギムロンの数打ちで仕立てた刀を鞘から抜く。

 ランタンや松明の明かりに照らされて、抜いた動作の中で白刃が残光を煌めかせる。


 想像と実際は違うもの。念のために刀を振り、天井や側面の壁にぶつかる心配が無い事を確認。


 俺の行動を目にして鷹揚に頷くと、ギムロンも手斧からバトルアックスに変更。

 クラックリックもダガーから得物の弓に変更。


 後は――、


「ファイヤーボール」

 おう! 快活な声が聞こえてきやがる!

 未だに元気なご様子。

 自然と進む足は強い踏み込みとなり、前を見る目は炯眼になるってもんだ。

 無事であるから早く救いたい――――。なんて感情からの強い踏み込みじゃない。

 無事だと分かれば沸々と怒りが湧いてくるからな! 俺をさんざっぱら痛めつけやがって!


「ファイヤーボール」

 更に声が近くなる。


「ぐぬぬ……」

 通用しなくてうなり声を上げるのもパターンだな。


 ――――ん?


「ファイヤーボールじゃコボルトは倒せないのか?」


「いえ、十分すぎる効果でしょう」

 問題ないとクラックリック。じゃあ、コクリコのうなり声はなんだ?

 まあ直接、目にすればいいことか!


「コクリコォォォォォォォォォォ!」

 視界にようやく捕捉。

 黄色と黒の二色からなるフード付きローブは紛う方なき、なんちゃらウィザード。


「げぇっ、トール!」


「げぇっ、トール! じゃねえよゴラァァ!」

 横山大先生の漫画かゴラァ!


「ゴァ?」


「ゴァ?」

 突如と耳朶に届く声にオウム返しをしつつ、コクリコに向かって進めていた足を止める。

 

 広い洞窟を抜ければ大空洞である空間に足を踏み入れた。

 

 空洞内は明るい。照らしているのは、コクリコと一緒に行動をしているヒーラーの女の子――、たしかクオンとかいう子だな。

 

 黒の中に紫の光沢がある長い髪をサイドテールでまとめている美少女。

 そんな美少女が手にしたスタッフからやや離れた所に、燦然と輝く光の玉が顕現している。

 

 便利な魔法だな。タチアナも使用出来るというファイアフライって魔法だろう。

 ランタンとは比べものにならない光の強さ。

 フラッシュライトの光量を全体に拡散させたかのような輝き。そのおかげで大空洞の隅々まで照らされている。

 

 俺もゲッコーさんからフラッシュライトを借りてくればよかったな。

 湿地を歩いた時と同様の、備え不足を反省してしまう。


 ――……じゃねえよ!


「トール!」


「オイゴラァ! どチビまな板、絶壁の北壁バーティカル無乳ナイチチAAAのクレーター!」


「なんか、メチャクチャに言ってくれますね」


「どういう状況だゴラァ!」


「見ての通りですよ!」

 見ての通りだぁ?

 こっちはそれが分からないから聞いてんだろうが! コボルト退治はどうしたんだよ!


「ゴァ!」


「うるせえ! ゴァ! じゃねえよ! ゴラァじゃボケッ!」

 声の主が俺に気圧されたようで、でっかい体がやや弓なりとなる。


「流石は会頭」「迫力のある大音声じゃわい」「素敵です」と、今回、随伴してくれるメンバーから感嘆の声が上がる。


「で、なんでコボルトじゃないんだよ。なんでこの――――トロールと向かい合ってるんだよ!」

 なんだよトロールって! 大空洞に出たと思ったらトロールがいるじゃねえか! しかも三体!


「詳しいことは後で話します。まずは目の前の脅威から対処しましょう」


「お前、話は聞くけど分かってるだろうな? こっちは落とし前をつけにきたんだからな。終わった後にお前に待っているのは絶対不変の地獄だと知れ!」

 拇指を立てて自分の首を掻き切るようなジェスチャーを見せる。


「反省はしてますから。とにかく目の前に集中してください。脅威です!」

 脅威っていってもトロールだろ。

 何度も目にしてるっての。俺にとってはすでに脅威――――、


 ズガシャ!


 ――……んん……。

 何という音だ。暴力を体現したかのような音じゃないか。

 

 広い空洞内をよく反響する暴力の音。発信源はトロールが手にする電柱のような丸太を簡素に加工した棍棒。

 後ちょっとで俺の頭上に見舞われるところだった。

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