PHASE-267【出来る奴らはいい代物を使えばいい】

 持たざる者の気持ちとかはともかくとして、俺だって馬鹿じゃない。


「ライとクオンには特別報酬をギルドから出そう」


「「え!?」」

 声が合うね~。


「頑張ったのに報酬が出ないとかあり得ないからね。俺の独断で出すよ。不平が生まれないように内緒でな」

 内緒となると悪い気がするのか、周囲に目を向ける新米二人。

 ギムロン達は自分たち以上に活躍した。当然、彼らにも報酬はあるはず。

 が、俺の発言には自分たち二人の名前だけしか出ていない。なのでそこがどうしても引っかかっているようだ。


「ワシらに報酬はない。そもそも貰うつもりもなかったしの」

 引っかかりを取ってやるかのように、笑みを湛えてギムロンが口を開けば、


「ああ、会頭とクエストをこなすこと自体が報酬であり喜びだ。俺の幸福はそこにある」


「その通りです。大恩に対して些細な協力しか出来ませんでしたが」

 と、クラックリックとタチアナが続く。


 ギムロンは気にする事はないから報酬を貰えと豪快に笑う。

 

 タチアナは出身の街を瘴気から救ってくれた恩に報いるためのもの。二人には得るだけの権利があると諭した。


 ――……問題はクラックリックだ。

 なんだコイツの発言は……。幸福って……。

 忠誠というより、俺を崇め奉ろうとしている感じがするぞ……。

 こういうのが反抗勢力を見つければ、問答無用で異端裁判を開廷して暴走するんだろうな。

 考えが変な方向に進んだ時は、ベルに全力で修正してもらおう。

 

「しかし……」

 やはり悪いと思うのか、クオンがなにか言おうとした時、


「問題ないわい。十分に報酬は得たからの。大収穫じゃった。後でお前等も手伝ってくれればそれでいい」

 ダイヒレン……。たしかに大収穫だった。

 凶暴化しても攻撃を受ければ本来は逃げるとされている巨大Gは、今回の戦闘においては大いに追い詰められて、逃げることをせずに戦いに傾倒した。

 結果、大量の素材に変わった。

 ギムロンは大喜びだ。

 

 このクエストで得られる報酬なんかが霞むくらいの収穫だったから、むしろそこから報酬を出してやってもいいと新米二人に言う。

 ライは喜ぶけども、クオンは渋面だ。後者の気持ちは凄く分かる。


「で、この新人二人にはどんな報酬をやるんだ?」


「あのさ、王城の西の塔にあった魔法の鉄扉ってどうなったの?」

 ギムロンの問いに問いで返す俺。


「溶かして一点物の防具と、数種類の鋳型に流して、三十振りほどの刀剣を作ったぞ。数打ちじゃなくて叩きに叩いて不純物なんかない、生産重視の中でも最高の刀剣に仕上がったわい」

 得意げに髭をしごく。

 魔法効果は鉄扉が攻撃魔法を防ぐ為のものだから、刀剣や防具にも同じ効果があるそうだ。

 防魔に優れた一品で、そこそこの攻撃魔法なら、刀剣で斬って捨てることも可能とのこと。


「んじゃ、その刀剣の中から選んでもらって、一振りライにあげてよ」


「おういいぞ」


「「え!?」」

 やめて……。リア充のシンクロは俺の心を傷つける。

 数打ちのブロードソードしかもっていない駆け出しが、いきなり魔法付与の刀剣を手に入れるなんてあり得ないと、貰うことを躊躇する。

 

 ドワーフの打ったブロードソードも、駆け出しとしては過ぎた代物で、現状でも恵まれているのに。と、ライは続ける。

 確かにRPG序盤で、ドワーフが作りだした装備なんて中々ない展開だもんな。普通は中盤以降って感じだよね。


 ライには魔法付与の刀剣。クオンには蔵の中にある物から選んでもらう事にした。

 彼女もやはり躊躇する。


「いいから貰っといてくれ。先生が選んだ時点で君らは有能な人材なんだから。有能なのは最初からいいもんに触れてればいいんだよ」

 と、帝王学のような考え方で、譲渡することを約束する。


「ただ、偏ったエリート思想が芽生えたら、うちのベルがお前等のことを修正するからな」


「はい。ひたむきに頑張りますし、頑張らせます」

 いい返事だな。クオン。

 すでに嫁さんのポジションかな。

 幸せオーラに当てられて、灰になりそうだぜ……。


「あの……」

 なんだ? 弱々しい声音だな。俺に泣かされてからは随分と静かになったな。


「どうしたコクリコ?」


「私の成功報酬は?」

 ほう、静かになったと思ったらこれだよ。

 このまな板はなんとも図太い神経をしていらっしゃる。

 貰えると思っているのが凄い発想だよ。


「お前はクエストを理由に俺から逃げただけだ。邪な心を持つ者に報酬は出ない」


「うぬ……」


「俺のパーティーから追放されないことが今回の報酬だ。度が過ぎた悪質ないたずらをすれば次はないぞ」

 本気を伝える為に思いっ切り睨み付けてやる。

 だが、俺には目力ってのがないのか、受ける方はキョトンとしていた。なのでプレイギアをポーチから取り出してやる。


「分かりました!」

 即答が返ってくる。

 カルロ・ベローチェに追いかけ回されたのが、トラウマになったみたいだな。

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