PHASE-266【まずは損して得取れ】
木を簡単に加工した杖でカツカツと音を立てながら歩き、俺と並ぶように立つ族長のサラン氏が、対面するリオスの皆さん一人一人に顔を向ける。
「サランさん」
おう、さん付けですか。カリナさんを始め、町の皆さんはサラン氏に敬慕の念を抱いているようで、膝を突き視線を合わせて無事でいてくれた喜びを素直に口にする。
目尻には涙まで浮かべている。
ふらつくサラン氏に対して、町の人達が直ぐさま体を支えていた。
「こんなに痩せ細って……」
「私などより、皆さんが正気に戻ったことが喜ばしいです」
双方が喜びを分かち合う。
もちろん皆が皆、無事ではない。それでも残された方々は、失った悲しみよりも無事だった者たちとの再会の喜びに重きを置く。
そうすることで、悲しみを背負いながらも前を向いていけるから――なのかな。
俺のようなまだまだ子供の存在には、皆さんの心の中までは理解できない。
表情からしか窺い知ることが出来ないが、皆さん笑みを見せてくれるのだから、今回のクエストは成功と考えていいだろう。
「再会の喜びのところ悪いのですが、コボルトの皆さんは今まで通り――――」
この町でお願いできますか? と、言い切るのも不要とばかりに、
「もちろんです。この町は皆で発展してきた町ですから」
と、満面の笑みをカリナさんは俺へと返してくる。
「ですが、人数が増えるとなると食料の方が……」
継いで出る声は些か不安げ。
「ああ、この町のコボルトじゃない皆さんは王都で働いていただきます。あと、この町の特産であるクランベリーを王都やレゾンをはじめ各地に提供していただければ、王都からは穀物を、レゾンからは魚と塩を提供します」
「それは有りがたいです」
「それと今回の報酬はいりません」
「「「「え!?」」」」
俺の発言にはリオスサイドだけでなく、一緒に冒険したメンバーも驚き。
クエストをこなせば報酬をもらえる。新人さん達はそれを期待していたから納得がいかないようで、不満が表情に出ていた。
しかし、発言者が俺となれば、不服を言いたくても言えないといったところ。会頭だからね。仕方ないね。こういうのがパワハラの元になっていくんだろうな。
俺は駄目なパワハラ上司になるつもりは毛頭ない。励んだ者には励んだだけの報酬をちゃんと与える。
「クエスト報酬をこちらに出すより、それはコボルトの皆さんのために使用してください。この町が潤ってきた時に、こちらに報酬を支払っていただければ結構です。いわば投資です」
「ですが」
「いいんですって」
ゲーテも得ようと思うなら先ず与えよって言ってるし。
ここは徳を売った方が、今後もよりよい関係が築けるからね。
「太っ腹よ」
豪快に笑うギムロンに続いて、クラックリックにタチアナと、俺に尊敬の眼差しを向けてくる。
こうやって俺へのリスペクト値を上げるのも大事なんですよ。
会頭たる者、メンバーから揺るがない信頼を得なければ、魔王軍とは戦えないからね。
「でも……」
おっと、ここでライが俺に意見を言いたそうだね。
クオンが直ぐさま俺とライの間に入るようにして、発言をさせないように制しようとしている。
まあ、ライの気持ちもわからんではない。
不服を口にすることだって分かっていた。
「言ってみるといいよ。気にすることなくはっきりと」
発言を許してみるも、恐れ多いとクオンはライに言わせようとはしない。
いいからと、促してあげれば、
「俺たちにとっては死活問題です……」
クエストをこなして報酬を得る。それで生計を立てる。どの世界に置いても仕事とはそういうものだろう。
なのに俺ときたらそれを無に帰すような発言を平気でする。
持つ者には、持たざる者の気持ちが分からないのだろうか? と、ライは思っているだろう。
俺としては、幼馴染みとパーティー組んでるリア充なライを見ていると、持たざる者の気持ちが分かるかな? と、逆に問いたいけどね。
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