PHASE-1470【紛い物】
「闇の上位魔法が通用しないのがいるんだな……」
リンの魔法が直撃して無事だったのって、ベル以外では初めて見たかも。
「ふ~ん」
おお……。
平静を装っているけども、リンはすこぶる不機嫌なご様子。
「大した魔法ではないな。闇魔法でその程度なら、他の魔法は当たったところでかゆい程度だろう」
「へぇ」
顔に笑みを貼り付けてはいるけど、リンから怒りの感情がヒシヒシと伝わってくる。
心なしか、リンを中心にして大気が震えているような気もする……。
古の大英雄にして、この世界のアンデッドにおいて最高位であるアルトラリッチであり、最高の死霊魔術師。
表情にはあまり感情を出してはいないけど……、間違いなく怒っている。
普段なら茶化すシャルナが、今のリンには触れないでおこうと思っているようで、口を一文字にして他の相手から放たれる矢に対応していた。
「今度はこちらが炎を見舞ってやろう! バーストフレア!」
デカ頭め! 弓術だけでなく魔法も高火力なのを使用してくるね。
「なんの! ファイヤーボール」
と、ここで今の今まで障壁に守られていたコクリコが、練りに練ったファイヤーボールをアドンとサムソンと同時に放つ。
「ほう!」
装身具で強化された火球の大きさにデカ頭は感心。
自らのバーストフレアを火球一つに相殺され、残りの二つが迫れば、
「ふん!」
両腕で火球を打ち払ってみせる。
「あいつ強えな」
「城へと続く城門を守護する立場なのだろう。それなりの実力者とみていい」
と、ベルの評価も高い。
「どうだか」
ベルが評価するということは、それだけで実力者あつかいして間違いないのだが、それを耳にするリンの機嫌は更に悪くなる。
圧倒的強者が実力者と認めることが気に入らないらしい。
「もう面倒だからこの城壁ごとあいつ等を消し去ってもいいかしら」
声は普段と変わらない音量だけども、怒りがかなり含まれているな。
「オムニガル。居るなら少しはなだめろよ」
「やだよ。ああなったら私でも近づきづらいもん……」
と、これまた姿は見せず、声だけで返してくる。
「ベル」
こうなれば唯一の天敵であるベルに託したいが、
「傲慢さを正すには良い相手かもしれない」
正すって……。
無理でしょうよ。五百年という長い年月で成形された性格なんだからな。
どちらかというと、長い年月で成形された性格で、デカ頭に目に物見せてやる! って考えしかないと思うぞ。
「調子に乗っているみたいだけど、ここいらで現実を見せてあげようかしら!」
語末に進むにつれ、リンの声音が強くなる。
「大規模なのはやめてくれよ!」
こっちにまで被害が出たら困ると述べれば、
「留意しましょう」
と、返しながら自身の足元を強く踏み、
「ランドイーター!」
と、唱える。
壁上に立つデカ頭の足元から突如として出てくる巨大な口。
大きく開かれた口がデカ頭をばっくりと一口で捕食。
顕現してから口が閉じるまでの速さを見切ることが俺には出来なかった。
フィンガースナップでお手軽に発動したダークフレイムピラーとは違って、本腰入れての発動だったようだ。
「一瞬だったな」
「当然よ。私になめた発言をするとどうなるかというのを周囲の連中に見せる事が出来たのはよかったんじゃないかしら。無駄な抵抗もしなくなるでしょう」
本気になったリンの上位魔法をくらえば、瞬殺だったか。
「頭の大きさに釣り合った大言吐きだったようだけど、結局はこの程度だったようね」
嘲笑うリン。
それを見せられると味方側である俺も背筋が寒くなる。
普段の小馬鹿にする時の嘲笑とは違い、とても酷薄なものだった。
俺でこうなんだからな。城壁側の面々は肝を冷やしていることだろう。
ここで壁上に立つ連中を見る。
矢を射ることを止めて立っていた。
兜で表情は隠されているが、心底から伝わってくる恐怖ってのは体の端々に出てくるものなんだけど……も……。
――……うむん……。
「出てきてないな」
余裕ある佇まいだった。
「中心的なヤツが瞬殺されているのになんか余裕だな」
「判断が早い。お前達の判断は無駄に早い」
こちらが強者を一人倒した中、唯一ベルだけが隙を見せることなくランドイーターの閉じられた口を見やる。
「白髪女の言は正しい。全くもって判断が早い」
声は閉鎖された狭い場所からようで、反響もしていた。
現在そういった状況にあるのは一人しかいない。
「惰弱!」
閉じられた大きな口が内側から無理矢理に開かれる。
「ふん!」
次には腰に佩いていたロングソードを取り出してランドイーターの口を横一文字。
大口は力なく霧散していく。
「まだまだ俺には届かないようだぞ。女」
更に継いでくる発言に、リンの眉根は更に吊り上げる――かと思ったけども、怪訝な表情となり、しばらくしてから何かしらを察したようで、
「なるほど」
と、一言。
「オムニガル」
と、続けて伝えれば、
「分かった」
と、ツーカーの関係には主語が不要らしく、理解したと返してくる。
「どうした? 我が実力の前に言葉を失ったか。その中では圧倒的な魔力を有してようだな。となれば、貴様を倒せば後は容易いといったところか。これは楽な撃退になりそうだ! ハハハハハ――」
「おうおう、ランドイーターを防ぎきったもんだから饒舌になってるな」
「あの程度で饒舌になる。つまりは、あの程度で誇るだけの実力しかないということだ。それなりの実力者だと言ったが、それは撤回しよう。底が知れた」
俺の後に発するベルは辛辣。
あの程度と言われればリンはおもしろくないだろうけど、発言者がベルとなると反論するのが怖いのか、苦笑いでしか返せないでいた。
それに比べて、
「言うではないか白髪!」
「事実を言っただけだ。足元から顕現した口による攻撃を対処しただけで有頂天なのだからな。そして、いま見せている実力と話しぶりには差があるというのも分かる。となれば、貴様の今の実力は紛い物ということだろう」
ベルによる推測。
帝国軍中佐殿は力だけでなく知力も非常に高いのは、プレイギアに表示されたステータスでも目にしている。
召喚した面子の中で知力カンストしている先生を除けば、荀攸さんと並ぶ知力の持ち主。
そんなベルが言うんだからな。
「紛い物となれば、それを本物に見せるためのタネがあるって事だな?」
「そうだよ」
ここでオムニガルが城壁から上半身だけをヌッと出してくる。
先ほどのリンの呼びかけに応じての行動は、城壁内へと忍び込んでの偵察だったようだ。
自由に姿を消して行動できるのは非常に便利だな。
ゲッコーさんと一緒に行動させれば良いパートナーになりそうな気がする。
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