PHASE-410【馬鹿魔法は本当に止めてほしい】
「…………なるほど……。勇者というのは叡智にも富むようだ」
「いや~」
叡智に富むとか初めて言われたもんだから、背中がこそばゆくなるね。
基本、内のパーティーメンバーからは馬鹿あつかいだからな。
でも、称賛を受けても許してやらない。
顔は若干にやけてしまっただろうが、油断はしてやらん。
「魔王軍だな。間違いなく魔王軍のヤツだろお前」
「ええ、その通り」
「素直だな。どうせ俺たちをここで亡き者するからって考えで、口が軽くなっているのかな」
「ええ、その通り」
何という余裕。
同じ発言での返答が無性にイラッとする。
こいつめ。俺の側にいる二人の実力を知ってからでも、はたして同じ事を言えるのだろうか。
その高慢ちきな考え方をたたき折ってやる!
だがその前に……、
「侯爵が魔王軍って事は、メイドさん達も魔王軍なんですか?」
返答としてのベストは、強要されて戦っている人間だとありがたいんだが。
「はい」
代表して、コトネさんが返答。
――……やっぱり魔王軍か……。
「これはイリーに謝らないとな……」
誰にも聞こえない程度の声量で独白。
あいつの言っていたことは、実を言うと正鵠を射ていたんだな。
黄色の瞳は魔の証とかランシェルちゃんに対して暴言を吐いていたが、実際その通りだった。
――……!?
「あれ、じゃあ騎士団は」
「兵の皆さんは元々こちらにおられる方々です」
「コトネ、無駄に喋るな」
おう、威圧しているよ。
「無駄に喋るなとか、お前が自分から魔王軍って言ってる時点で、そこまで苛立ちを見せるような内容だったとは思わないけどな」
「確かに。本来なら勇者を我が掌中に収めて利用し、魔王様の尖兵と考えていたが、失敗となれば別段どうでもいい。ここで死んでもらいましょう。元々、その程度の価値しかないと考えていましたから」
ほうほう。なめてますな。
どうやって俺を利用しようとしたのかは分からんが、魔王軍と分かった以上、戦いは避けられない。
死んでもらうとか言ってるヤツに加減なんてしなくてよし!
斬って候。
と、言いたいところだけど、侯爵の体が乗っ取られているとなると、斬りにくいよな。
可能ならば、メイドさん達とも戦いたくはない――――。
実際メイドさん達を見れば、戦闘を行うのは嫌だといった感じで、手に握るショートソードの構えは緩い。
だが、緩いだけであって、構えを解いているわけではない。
美人の集団であっても魔王軍。
構えを解かない以上は――――、
「メイドさん方。戦うというなら俺たちは――――」
「ランページボール」
容赦はしない。とまでは言わせて欲しかった!
それで相手が俺たちに畏怖して、手出しをしなくなればいいな。という淡い考えも、空気を読まないスマホ体型が台無しにしてくれる。
外ならまだしも、建物内――しかも回廊で迷惑な馬鹿魔法を唱えるとか!
「やっぱりお前はアホなのかぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
直ぐさま俺は相対する者たちではなく、身内の攻撃に対して身を低くしつつ、荒ぶる球体に向かって炎の盾を展開して防ぐ。
ちゃっかりとしている優秀どころの三人は、俺の背後に集まり、アホな魔法を回避。
「なんなのだその小娘は!」
おっと、炎の盾越しに侯爵が驚いているのが見える。
驚いているというか、珍妙奇天烈摩訶不思議な者を目にしたと言ったところか。
でも、発動した魔法に関しては、脅威だとは思っていないようで、余裕で佇んでいる。
メイドさん達も柳のようなたおやかな動きで、飛び散る火の玉を回避。
あの回避行動を目にするだけで、メイドさん全員、絶対に強いって理解できる。
余裕で佇む侯爵ことヴァンパイアは、迫る小石サイズの火の玉を中指にてデコピンの要領でかき消す。
当然ながらノーダメージだ。
そんな中で二本目の煙草を咥えるゲッコーさんは、
「飛んで来るのも防ぐのも火だからな。こりゃライター、マッチを所持しなくていいな」
と、なんとも余裕である。
俺の後ろにいる連中は、常に余裕をもって状況を窺えるのが羨ましいよ。
勇者である俺が一番、落ち着きの無いリアクションなのが悲しくなってくるね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます