PHASE-1018【支えあればこそ】

 ――――。

 

 ………………。

 

 …………。


「……!? もう蝉はこりごりなんだよ!」

 くわりと目を見開き、ふんすと勢いよく起き上がれば、急に起きたもんだからクラッとしてしまう。

 というか……。

 ここはどこ?

 ――……見渡せば――――、俺の寝室だ。

 安堵する。とりあえずあの世ではなかった。セラが俺を見て、また大笑いって光景を目にしなくてすんだ。

 装備のまま寝かされていた。

 気を失った俺をベッドまで運んでくれたようだな。


「いてて……」

 意識がしっかりとしてくると、遅れてやってくるのは体全体からの痛み。

 ――……そうか……。

 ベルにどつきまわされたからな……。

 成長を見せろってことだったから、ぴえんの中でも今までで培ったモノを全身全霊で出し切って、全部を否定されるように振り払われてのボッコボコ……。

 結局どれだけ実力が上がっても、ベルには勝てないという事を再認識させられましたわ……。


 しかもこの体の痛みからして、誰も俺に回復魔法やらポーションを使ってはくれなかったようだな……。

 俺が気を失った後でもいいから処方してくれても良かったんだろうけどな……。

 ベルがこの程度は怪我のうちにも入らないから不要だ。って一言を発したのは想像に難くない。

 痛みを残したままの方が次の成長への活力になるって事も言ったことだろう。

 

 発するだけで周囲の者達は、ただ首を縦に振るだけしか出来ないほどの圧をぶつけられたことだろうな。

 そして、ベルの強さをしっかりとこの地の者達も認識したはずだ。

 自分たちの想像では測れない存在だと。


「もう大丈夫のようで」


「大丈夫じゃないですよ」

 ここで荀攸さんが入室。

 出来れば美人のメイドさんとかに入ってきてほしかったと思ったけども、口にも表情にも出さない。


「女人がよかったようで」

 ――……表情には出ていたようだ……。


「いやしかしベル殿の強さたるや。異次元の強さでした。まるで飛将の如き強さでしたよ」

 飛将ってたしか呂布のことだっけ?

 呂布と違ってたちが悪いのは、頭も切れるってところなんだよね~。

 高順氏の前では絶対に言えないけどな。


「本当に強かった」

 凄く感心している。

 個の武ではなく、戦略、戦術にて全体を動かすのが軍師。

 そんな軍師である荀攸さんでもベルの個の強さに魅了されているようだ。


「そういえば荀攸さんは、ベルが戦うのを見るのは初めてですよね?」


「ええ」


「凄かったでしょ」


「ええ」


「何が凄いって、俺が全力でぶつかったのに、今まで培ってきた努力が全て無意味だったと思わされるぐらいの差ってのを見る事が出来たでしょ」


「ええ……」

 ええしか言ってくれねえな……。

 でもさ……。チートキャラだってのは知っているけども、流石に強すぎるんだよ。

 なんでストレンクスンによる地力向上に、ブーステッドによる限界解放まで使用した上でのアクセルやラピッドで動く俺を簡単に捕捉してくるの?

 渾身の一撃も簡単に受け流すし……。

 段々と記憶がよみがえってくれば、戦慄が俺の体を包み込んでくる……。


 でもって、打たれた部分の痛みも心なしか強くなっている。

 

 まったく。もう少し公爵としての俺の立場も考えてほしいよ……。

 一方的に俺が地面に倒れるだけの光景を目にしたら、俺に対する兵士たちの忠誠心ってのがゆらぎそうじゃないか。


 逆に傭兵団は団長を倒した俺が手も足も出ずにしばき倒された光景を目の当たりにしたことで、俺が気を失った後に行われた話し合いは円滑に進んだという副産物が生まれたと、荀攸さんに聞かされた……。

 


 ――――起き上がって身支度をして場所移動。

 身支度といっても、ベッドに寝かされた時と格好は変わらないけど。

 

 ――――大広間へと移動すれば、円卓にゲッコーさん、爺様。

 マジョリカとガリオン、団長補佐のガラドスクとシェザールが席に着いている。

 当然、ベルも座っている。

 ベルをチラ見するだけで体中の痛みが強くなるよ……。


 これに加えて――、


「俺の知らないところでしっかりと活躍してくださったようで」


「いえいえ、こちらとしても更に関係を深められて良かったというもの」

 と、俺に返せば、両サイドの二人も大いに頷く。

 この方々の活躍も、この大広間までの移動の合間に荀攸さんに聞かされた。

 この方々――つまりは【白狼の宴】【オグンの金床】【アーモリー・パライゾ】の三大ギルド。

 ミルド領の大手ギルドの代表者三名も参加してくれている。

 敷地内での戦いの最中に、公都の中で頑張ってくれたのがギルドの皆さん。


 傭兵団の残り、つまりは愚連隊レベルの連中は公爵邸への潜入には参加できず、S級さんが発見していた公都での拠点にて待機。

 その拠点に強襲をかけて、連中の捕縛に対応してくれたそうだ。

 俺達の目の見えないところでもしっかりと協力してくれている方々がいるというのは本当に有り難いことだ。

 

 こういった方々がいることで、後顧の憂いを断って活動できるというものだからな。

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