PHASE-1019【私兵増員】
三名のギルマスが大広間に参加してくれているということは、この方々に対して労いと感謝だけでなく、三ギルドで働く冒険者たちには形としての褒賞を与える流れなんだろうな。
論功行賞。これは後でしっかりと行わないといけない。
後は、誰を功績第一位にするかってのが重要になってくる。
こういったのは選択を誤ると、なんで自分じゃないんだ? っていう不快感も芽生えるからな。
しっかりと見定めないといけないのも俺の役目。
うん。面倒くさいしストレス溜まる。
やっぱトップって大変だな……。
まあこれは追々考えるとして、今は――、
「俺が転がっていた間にしっかりと話は済んだそうで何より。ここに来る間にも色々と荀攸さんに聞かされたし、話し合いもした。何たって自室からここまで歩きだと結構な距離だからな」
「ふんっ」
こっちは喋々と話したのに、新伯爵殿は腕組みしてそっぽ向いての短い返しだけ。
隣席する三人はその態度に肝を冷やしているご様子。
副団長に団長補佐の三人から強者としての威厳が薄まっているのは、俺と戦ったベルの強さを目の当たりにしているからだろう。
ここで態度悪いと、ベルに怒られるからな。
「まあ態度はいいけどさ、こっちのお三方のギルドが捕縛した連中もしっかりと解放するから、責任を持って真っ当にしろよ」
「言われなくても分かっている。敗者は勝者の言に従う」
そういった理由だと素直なんだよな。
どんだけ力こそが全て主義なんだろうか。
ギルドのお三方には、傭兵団の顛末はオフレコでお願いしてもらっており、聞き届けてもらっているそうだ。
有り難いね。傭兵団が処刑されずに、そのトップが伯爵になっているなんて世間には知られたくないからな。
荀攸さんがここにギルマス達を呼んでいる時点で、箝口はしっかりと敷いているんだろうし、わざわざこの領地の領主との間に軋轢は生みたくないだろうしな。
見て見ぬ振りはには感謝です。
「愚鈍な連中をまとめ上げつつ、広い領地を統治できるだけの力があるかは見物ですな」
サクッと毒を吐く荀攸さん。
対してマジョリカは睨むけども、真っ向から受けて立つとばかりに睨み返す辺りは流石である。
継いで、
「抑制されることを嫌う者達の受け皿となったのが傭兵団。その傭兵団の頭目が今度は抑制する側になるわけです。間違いなく問題は起こるでしょう。それにどうやって対応するか――」
裁きつつしっかりと領地を治めて、真っ当な部隊を作ることが出来るか期待はしていると荀攸さんは付け加える。
強兵へと育成し、魔王軍との戦いにて活躍させることが可能か。
それとも、その力を使って再びこの領地に災厄を振りまくか。
後者を選べば――、
「その時こそ、柔和な荀攸さんの表情が鬼に変わるわけだ」
「しっかりと変わりますよ。変わらないように努力してもらう為に監視はつけます。それとドルカネス新伯爵殿には兵権は与えません」
「それが折衷案ですからね」
こっちサイドとマジョリカサイド――ではなく、俺と荀攸さんとの間での決め事。
兵権を与えないことで少しでも反乱の機運を削ぐといった意味合いがある。
ぶっちゃけるとマジョリカはもうそんな事をするとは思えないけども、それは俺の主観であって、全体の見方ではない。
俺の考えよりも荀攸さんの考えに賛同する者の数が多いのは当たり前だからな。
傭兵団自体はマジョリカの元に残るのだから、実質、兵権はなくても私兵は有しているようなもの。だからしっかりと監視はつける。
そして、その兵権を統括する立場が俺。
マジョリカにそれを伝えれば、構わないと二つ返事。
傭兵団は丸々、俺の私兵ということになる。
伯爵でありつつ、有事となれば俺の下でラルゴ達と同じ立場で戦うという事になるようだ。
爵位第三位だが、戦いとなればラルゴ達と同等ってのはなんか不思議だな。
他にも俺が転がっていた時の話で上がったのは、現在クガ、ネアシスの二領に爺様が派遣している文官たちをそのまま起用するという事だった。
起用したいというマジョリカは、現在の倍の報酬を出すから、爺様にその人材を寄こせと上からな物言いだったそうだ。
爺様に対してきつめに当たるのは変わらないようだ。
爺様は文官たちがそれで問題ないと応じれば、そのままマジョリカのところに仕官させるということだった。
強さにだけ従う荒くれ者を束ねることは出来ても、領民の様々な感情からなる心を纏める才能は現状の自分には無いと自覚。
なので有能なのは使わせてもらうということだった。
権力を持つ者が出来ない事を無理にやろうとすれば、自分が出来るようにするために、今までの政策を根幹から無理矢理に変えようとする。
ゲームで例えるなら難易度ハードがクリアできないから、難易度ノーマルでプレイってやつだ。
で、そうやって変えてしまえば、次は難易度イージーになんの抵抗もなく変更する。
結果、その政が原因で領地は崩壊。
そうならないためにも出来る者が対応するのが最善。
統治者とは下で働く者の失敗によって民草が不満を抱いた時、その矢面に立てばいいだけだと、既に統治者としての片鱗を垣間見せてくれる。
考え方が似ているからマジョリカに対して信頼を抱く俺だが、荀攸さんとしては信頼を置くのはまだまだ先といったところだ。
もっと思慮深くならないといけないんだろうが、マジョリカ同様、それらは出来る人たちに任せるので問題ない。
文官たちだけでなく、こっちからも特務機関インスペクターの者達に加えて、俺の私兵となる傭兵団の監視役としてS級さんを四名も派遣。
マジョリカが女性であるという事を考慮して、女性のS級さん四人による監視の下で活動してもらう。
S級さん達が監視という時点で傭兵団は邪な考えを抱くことはないと思われる。
何より圧倒的な強者が常に見張るという行為に対して、ガリオン達は嫌悪感ではなく喜んでいたそうだ。
ガリオン達ってMなのかな? って思っちゃうよね。
純粋に強者と一緒にいれるということは、それだけ腕を試す機会が多いからというのが喜びの理由だった。
根っからの武闘派で力こそ正義主義である。
というか宗教だな。
強者を敬い奉るって感じだ。
強者という言葉は、傭兵団の脳内では神仏に変換されていそうだな。
強者崇拝である。
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