PHASE-1039【樹上移動】

「おう、ピョンピョンと敏捷なことで」

 金色の長い髪を靡かせているエルフさんが、枝から枝へと跳躍移動。

 他のエルフさんも同様に動き回っている。


「私達も上の方に行きましょう」


「だな」


「それはいやじゃの~」

 コクリコと俺は乗り気だけど、樽型ボディであるギムロンは嫌がる。

 一応、木と木を繋ぐような吊り橋もあるから問題はないだろうと言ってみるけど嫌がっている。

 それでも俺達が木を登っていけば、渋々とついてくる。


「耳長は全くもって面倒な所で生活しとる。人間社会の方がまだ過ごしやすい」

 洞窟や地下を住まいにしているドワーフからすれば、樹上生活は真逆の生活だからか、登った後でもぶつぶつと不満を漏らしていた。


「まあまあ、とりあえずあそこに行ってみようぜ」

 旅人も訪れる機会がほぼないような国だから、外側に対する商売はしていないようだけど、内側のための生活必需品はしっかと販売されているので、それを見ようと大きな枝の上で胡座をかくギムロンを立たせる。


「よくぞ来てくださいました勇者様!」


「ああ、はい」

 やはりというべきか、俺に対してウエルカムなエルフの商人さん。

 俺達がまず立ち寄ったのは主に鉱物を加工したお店。

 シャルナが持っている黒石英のショートソードに似たものが売られていた。

 主にナイフサイズが多い。

 戦闘用というより、調理などで使用されるのが殆どを占めているけども、奥の壁には鉱物からなるロングソードなんかも飾られていた。

 この辺りは民階級のテレリより、ノルドール階級の兵士たちの往来が多いことから武器も売られているという。

 

 俺やコクリコとは違い、置かれている商品を熱気を帯びさせて一つ一つ隈無く見るギムロン。


 酒の飲み歩きを捨ててまで来ただけあって、エルフの加工、鍛冶技術に大きな関心を持つギムロンは、巌のような手でしっかりと握って利器を眺める。

 鋳造、鍛冶の技術においてこの世界で一番なのはドワーフなのだろうけど、拵えや彫金などの美というものは種族間で違いがあるようで、そういった部分を目を輝かせながら見ていた。

 見聞を広めて自分の成長に繋げる。

 上を目指す者の思考ですな。ギムロンは更なる高みを目指そうとしているようだ。


「こりゃ見事じゃわい」

 飾り気のない短い感想だからこその本心ってところか。


「有り難うございます。勇者様と行動を共にするドワーフ族の方にそう言っていただくのは最高の褒め言葉です」


「なんともむず痒くなるの」

 やはり俺の知っているようなエルフとドワーフは仲が悪いって設定は、この世界ではないようだな。

 

「そんじゃ記念にこのナイフをもらおうかの? ここでは金は使えるのかい?」


「使えますよ。外から訪れる方々は滅多にいらっしゃいませんが、外との関係を繋ぎ留めるためにも使用できるようになっております」

 とのことで、ギムロンが透き通る緋色の鉱物からなるナイフを購入。

 生活の中だけでなく、戦闘にも適したボウイナイフは硬紅榴石こうこうりゅうせきなる鉱物から出来ているそうで、魔法にて強度を上げたナイフだそうだ。

 買い物などではあまり利用されないダーナ円形金貨を二枚支払っての購入。

 約二十万円くらいのナイフか――。

 俺も買おうと思えば買えるが、躊躇する値段だな。

 渋ちんの俺とは違い、ギムロンはポンと出す。


 勇者御一行の中から購入してもらったということで、この店は繁盛しますと喜んでくれる。

 俺と関わるとステータスとなるようだ。

 本当に、俺ってこの地のためになにかしたんだろうか? どうしよう。まったくそんな記憶がないんだけど。


「あれじゃないですか? 偽勇者がいて、その偽勇者が本物より活躍して、それが勝手にトールの名声に繋がってるってオチじゃないですかね?」


「やめてくれる。本当にそう思えてくるから……というかそれが正解じゃないのか」

 俺の表情から読み取ったのか、コクリコがなんとも意地悪そうな笑みを湛えつつ言ってくる。

 でも心当たりのない俺としては、コクリコの言い分が的を射ている気がしてならない。

 本当に偽勇者とかがいて、俺以上に活躍していたら困る……。

 なにが困るって、そんな存在が本当に存在していたら、ベルやゲッコーさんに偽物に負けているっていう理由でしごかれそうだから困る……。

 

 ――三人して樹上を移動して色々と見て回る。

 

 地上の大通りと違って樹上は活気に満ちあふれていた。

 ギムロンは樽のような体で移動する度に難儀だと悪態をついていたけど、ちゃんと橋があるので言うほど移動に困ってはいないように見えた。

 橋ですれ違うって事もないからな。

 この橋は稀に訪れる他種族用に用意されているモノだというのが分かる。


 その証拠に、


「勇者様!」


「あ、どうも」

 枝から枝へと跳躍で移動している俺やコクリコの方が、エルフの方々とすれ違って挨拶をするからね。

 ギムロンの使用する橋を利用するエルフさん達は皆無だった――――。


「あれですね。夕、朝と食事をいただきましたが、エルフの食事は我々と代わり映えがないですね。もっと珍味みたいなのはないんですかね」


「とか言いながらずっと食ってるよな」

 朝食を終えてそんなに時間も経過していないのに、途中で購入したベーグルサンドによく似た食べ物をムシャムシャと食べながらの移動。

 本当によく食べるやつだ。これだけ跳びながら食べてると吐くんじゃないか?

 俺の中でこの美少女は吐くキャラというイメージがついているからな。


 だがしかし。コクリコのヤツ、ラピッドは使えないくせに普通に俺についてくるよな。

 毎度の事だが図抜けた身体能力の高さには驚かされる。

 魔法で驚かせてほしいもんだけど。

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