PHASE-1040【格好良くても、格好つかないよね】

「本格的に基本ピリアを覚えたらどうだ? タフネス以外も!」


「あの、後半の発言には怒気というか殺気が籠もってましたよ……」


「ああ、すまん。どこぞのなんちゃらウィザードに上手いこと騙されてな。一方的な殴る蹴るの暴行を受けた事を思い出してしまった」


「その後しっかりと罰は受けましたよ。未だに尾を引いてるとか勇者として――男として恥ずかしいですよ」


「ぬぅ」

 

「後、基本ピリアは気が向いたら覚えますよ」

 コイツ……。後衛なのにその枠を飛び出て前衛で無茶をやるくせにその発言。

 覚えるつもりはないようだな。

 そもそも基本ピリアなんて、習得者からインスタントで教わればいいだけなのにな。

 別段それを覚えれば魔法の獲得種類が制限されるとかっていうゲームみたいな縛りはないんだからさ。


「ピリアは現状タフネスだけで十分です。これも至近距離で魔法を使用した時のダメージ軽減の為に覚えただけですし」

 ――……なんというか、コイツにはコイツなりの美学があるのかな。

 ウィザードだからネイコスには力を入れても、ピリアにはほぼ興味ないって感じだろうか。

 戦い方は真逆だけどな!


「まあいいや。ただ戦いが厳しくなったら覚えろよ。なんだかんだでお前の力は頼りにしてるんだから」


「は、はい……」


「なに照れてんだよ」


「まさかトールにそんな風に思われていたとは」


「最初の頃は勇者パーティーから追放して、穏やかなスローライフをおくらせない人生を――とも思っていたけどな」


「おくらせなくて結構。私の人生にスローライフなんてぬるい言葉はありません」

 生涯現役みたいな格好良さだな。

 口の周りに食べかすがついてなかったなら、本当に格好良かったけどな。


「んじゃ、次ぎ行ってみようぜ」


「もう少し休もうや」

 樹上移動――吊り橋ばかりの移動は普段とは勝手が違うからか、疲れている様子のギムロン。

 冒険者として体力には申し分ないギムロンだが、不慣れな道を歩き続ければ疲れるのは当然。

 俺としてはもっとこの国を見て回って、ルミナングスさんやシャルナの言っていた内容を確認してみたいんだけどね。

 

 仕方ない。

 

 流石に息切れしているギムロンに無理はさせられない。

 ドワーフとしてはまだまだ若者だが、人間目線だと老けて見えるからね。その先入観もあるからかギムロンの意見を尊重する。


「もうちょっと歩けば安定した巨木があるぞ」

 巨木のてっぺんが剪定されて平になった場所が目の前に現れる。

 エルフさん達にとってはさながら公園って感じだろうか。


「ん?」


「おお! 勇者殿。おはようございます」


「おはようございますルミナングスさん。朝から警邏ご苦労さまです」

 俺達が休憩を取ろうとしたところには先客がいた。

 ルミナングスさんだけでなくルーシャンナルさんをはじめとしたエルフの方々。

 担当区画を巡回しつつ、現在は休憩中とのこと。

 次へと行く前にお茶を楽しんでいたという。


 この巨木の広場には軽食を売っている露天があり、そこで買ったものだそうだ。

 様々な露天が並んでいるのを見ていれば、コクリコがそこに足を進めているのは流石である。

 まだ食べるんだな。

 本当に吐いても知らんぞ。


「ふぃ~」

 どかりと音を立てて胡座をかけば、直ぐさま腰に携帯している陶器で出来た酒瓶を手にして楽しみ始めるギムロン。

 ドワーフが好む度数の強い酒からの酒気は、栓を抜いただけで一帯に広がり、こっちまで酔いそうになる。


 強い酒気にエルフさん達は一斉に苦笑い。

 朝っぱらから鼻腔に広げたくないニオイだったようだ。

 でも俺の仲間って事でなにも言えないといったご様子。

 申し訳ない。

 上手い具合に距離を取り始める皆さんに心の中で謝罪。


「失礼します」

 おっと。

 驚く登場だな。

 流石はエルフさん。音も無くこの広場に着地。

 気付くのにワンテンポ遅れてしまった。

 やはり身体能力は非常に高い。

 長命だからこそ、人間とは違って様々な鍛錬をたくさん行えるのも強味だよな。


「どうした?」

 着地にて登場したエルフさんは俺の方に一礼すれば、ルミナングスさんの方へとこれまた音も立てない歩法で近づき耳打ち。


「……ふむん」

 話を聞き終えれば腕を組んで考え込む。


「今回は我々の管轄ではないだろう。ポルパロング殿の手の者が管轄だ。そちらに言うべきではないか――というのは野暮か」

 苦笑いを湛えるルミナングスさん。

 だがギムロンの酒気を嫌がる時とは違い、不快感が混じった苦笑いだった。

 ポルパロングという新しい人物名が出てきたね。

 殿と敬称をつけるあたり、同等の立場かそれ以上か。

 氏族であるルミナングスさんより上となると王族だからな。同じ氏族と考えていいな。


「どうしたんです?」


「ああ、いえ。勇者殿に話すような事ではありません」


「勇者だからこそ話すべきだという考えには至らないんですかね」


「ぬっぅぅ……」

 物怖じしないコクリコは時として強く、頼もしい。

 そして含蓄深い事を言うところもある。

 年下だけど姉御肌を垣間見せる時があるのが格好良かったりするよね。

 口周りは残念だけど……。

 拭け! まずは口を拭け! さっきよりも汚れてるぞ! 格好良さが台無しだ。


「よければ聞かせてください」

 場にいるエルフさん達の衆目が、俺の発言によってルミナングスさんへと向けられる。

 衆目をあびれば長い呼気を一度して、ルミナングスさんは口を開いてくれる。

 

 ――――内容はエルフの子供が森にてはぐれたというものだった。

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