PHASE-1041【やる気ないのがいても邪魔】

 子供がはぐれた森にはモンスターも存在するとのこと。

 その内容を聞いた時点で、長々と話を聞くのは良くないと判断し、移動しながらとなる。

 酒を飲み始めたギムロンはまた移動か――というような文句はたれない。

 俺が自慢したい俺のギルドメンバーである。

 子供がモンスターのいる森に迷い込んだと耳にすれば、今までの移動が嘘みたいに機敏になる。

 こういうところが誇らしい。

 ギルド会頭として――仲間として誇らしい。


 樹上移動で聞かされるのは、この国には開拓が進んでいない場所がまだあるということ。

 その場所というのは、ドリルブロッコリーを中心地とした時、北に位置した場所になる。

 

 防御壁により外敵は防いでいるし、一般的なエルフ達が住まう場所は警邏と様々な対策で問題はない。

 この土地に元々住まう生物は、エルフ達から見て脅威とならないこともあって、無闇矢鱈に討伐もしない。


 だが、自分たちにとって脅威ではないといっても、脅威にさらされる者達もいるという。

 段々と分かってきた。


「つまりは北の未開の地ってのに住んでいるのが、ウーマンヤールと呼ばれる階級のエルフさん達って事ですね」


「はい」

 でもってポルパロングなる人物はやはりルミナングスさん同様に氏族のハイエルフだそうで、役職としては軍事に携わるルミナングスさんをサポートしたり、政務のサポートなどもこなして、各氏族たちを裏方から支える人物なんだそうだ。

 今回、北の方面の警邏を担当したのがポロパロングなる人物の配下の者達だったという。


 ただこの連中、北の警邏となれば毎度適当になるという。


 そしてウーマンヤールの方々もそれが分かっているから、困り事がある時はルミナングスさんの所へと嘆願に来るそうだ。


 ――で、現場の一歩前といったところに到着。


「ご足労おかけします」

 と、ルミナングスさんに一礼をするも、言葉と表情が一致しているようには見えなかった。


「やれやれ、これで自分たちは仕事をしなくてすむ――といったところでしょうかね」


「じゃな」

 正鵠を射たコクリコに続くギムロンは、息も切らすことなくついてきてくれた。

 有事と平時で動きをしっかりと使い分けているのはプロだね。

 

 そんな二人から唐突な嫌味を受けて、美しい顔立ちのエルフさん達の切れ長の目が更に鋭くなる。


「なんですか? 本当の事を言われるからイラッとするんですよ。事実じゃないことを言われたのならば流せばいいだけなんですからね」

 今回のコクリコは姉御肌全開。

 この中で一番年下とは思えないほどの格好良さがあるし、ワンドを煌めかせて言い放てば、睨んでいたエルフの方々が目を反らす。

 未だに口は拭いてないけど……。

 

 にしても、悠久の時の中を生きて、様々な経験を積んでいるだろうに、人間の少女の目力に負けて目を反らすとはね。

 エルフの質もピンキリだな。階級どうこうよりも実力主義にした方がいいんじゃないの?

 ここで待機していた連中は、実戦経験なんかが少ないと思われる。

 その点、コクリコは魔大陸でもしっかりと戦いを経験している。

 その差が生み出した気迫に押し負けたと見るべきだな。

 

 ともあれ――、


「すみませんね。うちのパーティーメンバーが」

 言いつつ朗らかな笑顔で謝罪すれば、俺の事をやはり知っているようで、体を硬直させて緊張していた。

 俺ってこの国だとベルみたいに立ち回れるかもね。


「さて、では探しましょうか」


「え!? 勇者殿も参加されるので!?」


「そりゃ参加しますよ。勇者ですから」


「「「「…………」」」」

 何ともばつの悪そうなポロパロングの部下達。

 心底であってもこういった手合いのトップにはさん付けも氏も付けてやんねえ。

 たとえ王族に次ぐ氏族階級ヴァンヤールであってもな。

 対面した時は建前で敬称は付けてやるけども。


「では……我々も」

 ばつが悪い中で一人がそう言うけども、


「結構。土地勘があっても乗り気のない者達が参加すれば邪魔なだけです」

 流石はコクリコの姉御だ。

 格好いいったらありゃしねえ。


「な、なんです!?」


「発言に負けないように口周りも格好良くしてやりたいんだよ」


「そうじゃな……」

 いつまで経っても拭かないので、俺が自前のハンカチで口周りを綺麗にしてやった。


「そ、そんなことはいいんですよ。トール、ギムロン。私達は地上を移動しますよ」


「ガデッサー!」


「なんじゃその返事は」

 ギムロンのツッコミをもらいつつ、樹上から降りて慣れた地面の上を走り出す。

 降りる時にポロパロングの部下達を肩越しに見れば、勇者一行からの発言に慚愧したのか、恥ずかしさから顔を伏せていた。

 恥じるだけの心があるなら、今後に期待したいね。


「感謝します勇者殿に御一行」


「ルミナングスさんは部下さん達と一緒になって木の上を移動した方が楽なんじゃないですか?」


「いえ、北側の森は壁外の森と同様で、案内役がいなければ迷うことになります。それにいつものことですので」

 こういった事が起これば、いつも自分たちで対応していたということもあり慣れているとのことだった。

 

 だからこそ、子供の捜索をルミナングスさんの方に願い出るって事なんだろうな。

 ポルパロングの部下達のやる気のなさを見れば、誰だってルミナングスさんにお願いするわな。

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