PHASE-1038【空いた時間で見て回ろう】
「で、その王様との面会は今日だけど、親父さんが仕事に出たって事はまだいいって事か?」
詳しい時間までは聞いてなかったからな。
「今日の夜だから夕方までは自由だよ。謁見の間で挨拶を交わしてから、トール達とは会食を楽しみたいって父様が言ってた」
ほうほう。
随分とフレンドリーだな。
国のエルフさん達だけでなく、王様も俺達にフレンドリーときている。
こうなると俺達の好感度の高さは王族発信と考えるべきかもね。
「なあシャルナ。なんでエルフさん達ってこんなに俺達を歓迎してんだ?」
素直に聞いてみる。
ルーシャンナルさんは楽しみにしておいてください。って言って茶を濁してきたけど、入国もしたことだし、王様に会う前に知っておかないと、もしかしたら礼を欠く事になるかもしれないからな。知ることが可能ならば知りたい。
「分かんない。私も気になったから父様に聞いてみたけど、トール達に驚いてほしいからって事で教えてくれなかった」
「そうか」
実の娘ではあるけども、俺のパーティーメンバーであることからシャルナにも教えてはいないようだ。
まあ夕方になれば分かることか。相手サイドのもくろみ通り、今晩はしっかりと驚かせてもらうかね。
となると、夕方まで時間が出来たわけだ。
出来たならこの時間を有効利用して、この国の内情を少しでも垣間見せてもらおう。
ウーマンヤールなる立場の方々を見る事も出来るかもしれん。
あまりにもあつかいがひどいなら、外交的な問題に発展しない程度に、会食の場で一言くらいは言わせてもらってもいいだろう。
友好的な謁見と、楽しい会食の場となるように祈ろう。
――氏族ということもあって、この屋敷には使用人さん達が当然のようにおり、昨夕同様に朝食の準備をしてくれる。
それをしっかりと堪能。で、この国で二度の食事をいただいて思うことは、本日の夕食も期待できるということ。
人間でも十分に楽しめる食事だったからね。
シャルナが人間の世界で食事をしている時点で、食べ物が似通ったものであるのは想像できていたけども。
野菜食が多いが、パンもあればベーコンなんかも普通に出てきた。
長命――人間目線なら不老のような存在だから、ここのエルフさん達は仙人みたいに霞でも食っているのかとも想像したが、食という共通点で親近感を抱けるのは喜ばしい。
さて――、
「時間もまだある事だし、俺と一緒に外に出てみたい人」
提案すれば、一番行動して欲しかったベルは夕方までゆっくりと過ごすとのこと。
手には手製と思われる猫じゃらし。
ミユキとひたすらに遊ぶようだ。
――……猫になりたい……。
ゲッコーさんはエルフの国の酒がどういったものなのかを知りたいそうで、そっちを一人で見て回るそうな。
見るだけじゃすまないだろうけど。
リンもベル同様に待機。
エルフの国の澄んだ空気があまり肌に合わないとのこと。そこはアンデッドだからなのかな。
シャルナは――、
「私、母様と姉様に会ってくるから」
「じゃあ俺も挨拶を――」
と、言ったところで後悔。
会ってくるって事はもしかして別居している可能性がある。
長い時の流れでの夫婦生活となれば、人間以上に不満を持ったりもするだろうからな。
その事を考慮せずに口を開いてしまった……。
「それは後で出来るから」
その発言で内心にて安堵。
別居の類いではないようだ。
発言からして、シャルナの母ちゃんと姉ちゃんは王様の所で働いているようだな。
後でってことは夕食の時間って意味なんだろうから。
――――うむ。
「なんかリオス付近の洞窟を思い出すな」
「だの。あん時はクラックリックとタチアナ。で、ライとクオンもおったな」
あの時はトロールを倒すのに必死だったな~。
それが魔大陸に行って、その中でも精鋭からなるレッドキャップス所属のトロールを倒すまでになったからな。
いや~、成長してますわ。
懐かしめば、イラッとしたことも思い出すというもの。
「で、俺が激オコでコクリコをカルロ・ベローチェで追い回したんだよな」
「その話はやめてもらおう。思い出すと怖いので……」
てなことで、俺とギムロンとコクリコの三人でエルフの国を見て回ることになった。
意外だったのは、ギムロンがゲッコーさんと行動しなかったことだ。
好きな酒よりも、エルフ達の鍛冶技術への関心が勝った模様。
「にしてもあれだな」
ドリルブロッコリーから出てはみたが、屋敷から見下ろしたとおり、城壁から先の大通りは本当に寂しい。
人っ子一人通っていない。
こんなにも活気のない大通りもないだろう。
でも活気のある声は聞こえてくるという不思議。
「まあ――エルフだからの」
ギムロンが上を見つつの発言。
流石はエルフの国と言うべきか、活気があるのは樹上。
俺達を歓迎した時も樹上からだったしな。
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