PHASE-444【極東における戦い。一応、終結】

「今回の戦いを見るに、これは上手く立ち回れば、魔王軍を内部から崩すなり、こちらに協力させる事もできるかもな」

 悪そうに微笑むゲッコーさん。

 でも言っている事は理解できる。

 サキュバスさん達の立ち位置を考えるとあり得るからな。

 魔王軍に人足として使われていたコボルト達だって、王都で頑張ってくれているし、リオスでは昔から人とコボルトが一緒に生活してたんだしな。

 魔王軍の中から造反組を結成させられれば、逆転の一手となり得るだろう。

 この辺りは先生に任せておけば、妙案を考えてくれるだろうな。

 

 とにもかくにも、敵の撤退を見送れたことだし、現状ドヌクトスにおける災難は去ったと考えていいだろう。

 

 ここは勝ち鬨を――――、


「他愛なかったですが、我々の勝利です。圧倒的な力に畏怖し、達成感も得られなかったかもしれませんが、勝利には違いありません! 側にいる者達の無事を祈り、今晩は祝杯ですよ! もちろん侯爵持ちです!」

 ――……俺が言いたかった台詞なんだよな。その台詞はさ……。

 侯爵持ちというワードまでは思いつかなかったけど……。

 今回、活躍できなかったのに、こういう時だけコクリコは場を仕切って目立とうとする。

 俺も活躍はしてないから、強くは言えないけど。

 お前じゃなくて、ゲッコーさんが場を締めればよかったと思うんだが。

 しかも、侯爵はまだ意識が戻っていないのに、勝手に奢る発言するその胆力がすげえな。


「「「「イィィィィィィィハァァァァァァァァァァァ!!!!」」」」

 S級さん達だけでなく、冒険者に兵士たち。騎士団までもがコクリコの勝利宣言に気分が高揚しているご様子。

 スティンガーの圧倒的な力に畏怖していたけど、勝利宣言と奢りを耳にすれば、そこは戦いに従事する人々、畏怖は吹き飛び、只酒が飲めるという喜びに変わり、圧倒的な力に怖がっていたが、今ではS級さん達の活躍を労っていた。

 

 で、その中心にいて、まだ只酒も飲んでいないのに、自分に酔っているのがコクリコさん。

 周囲が戦勝の祝いの言葉を不思議とコクリコに言うもんだから、あいつはスティンガーの超音速を超える、光速にて勘違いを発動。

 早速、羽根ペンを取り出し、メモ帳に走らせていく。

 自分の活躍として捏造した歴史が、また一ページ。

 いずれ俺が暴露するからいいけども。


「……トール様……」


「あ、ランシェル……」

 戦いの終わりを確認したのか、数人のメイドさん達と共に、ランシェルが壁上へと来た。

 罪悪感を背負っているようで、未だにしっかりと視線を合わせてくれないランシェル。

 俺も相手が男と知ってしまえば、どう対応すればいいのか正直わからない。

 友達として接するのはまだ難しい。

 俺にエロエロな夢を見せていたのが男の娘ってなると、俺のキャパを超えてんだよね……。

 良い子ではあるんだけどな。


 というか、これで女の子じゃないとか反則だろう。

 だって、どっからどう見てもメチャクチャ可愛い女の子じゃないか!

 ゲッコーさんのことわざじゃないことわざが脳内で再生されるよ。

【こんな可愛い子が女の子のはずがない】って……。

 冗談ではない! だって、ついてんだろ。俺と同じのが股間に!


「どうされました……」


「いや、なんでもない」

 お願いだから、そんな寂しげな目で俺を見ないで。

 

「う、うん。侯爵の容体は? それを伝えに来たんだろう?」

 嘘くさい咳を一つ行ってから質問すれば、


「はい。正にその事を伝えようと」


「うん」


「意識を取り戻されました。それとフェニメルエス様に操られていた兵の皆様に、住人の方々の肌の色も徐々に戻っており、回復に向かっています」

 この戦いにおいての何よりの朗報だな。

 これで正式に侯爵と話を進めることが出来るって事だ。今までが偽物だったわけだし。

 そう言えば、コトネさんとの話も中断していたな。

 事後処理もしないといけないし、これはバタバタしそうだ。

 当分はS級さん達にいてもらわないといけないな。

 

 ――――防衛に参加してくれた皆さんを労いつつ、俺たちは壁上を後にする。

 その間にイリーたち騎士団は、侯爵の無事を確認する為に、俺たちより先に別邸へと向かった。


「――――よし、じゃあ案内を頼むよ」

 あらかたの挨拶を終わらせて、ランシェルを始めとするメイドさん達に先導されて、馬車にて別邸へと赴く――――。


 パーティーメンバーと共に、ゼノと戦った回廊へと戻ってくる。

 S級さん達には壁上に残ってもらった。

 ゲッコーさんの指示を受けたS級さん達は、周囲にいる兵士や冒険者たちと協力して、周辺警戒と倒した敵の埋葬を行ってくれるとの事。

 埋葬をしないと、疫病が発生する可能性があるからだそうだ。

 正直、そういった作業をしてくれるのはありがたい。

 本当は、俺が率先してやらないといけない事なんだろうけど……。

 その作業をしなくていいと知れば、安堵感と罪悪感の両感情に挟まれる。


「お前にはお前の仕事がある」


「ありがとう」

 俺は本当に顔に出やすいのか、ベルから優しい言葉をもらった。

 

 回廊はメイドさん達が最低限の掃除をしてくれたそうで、ガラスや鏡の破片は撤去されていた。

 執務室の扉を横切り、更に先へと通路を進めば、俺たちより先に戻っていたイリーが、侯爵の部屋の前で待機していた。

 俺たちを出迎えるためだろう。


「ご苦労さん」

 感謝を込めた労いを述べる。


「いえ、そちらこそ。翼幻王ジズの軍勢を撃退してくださり感謝しています。我々は何も出来ませんでした」

 いやいや、俺も何もしてないよ。

 スティンガーを連続発射して終わらせるっていうものだったから。

 命があまりにも軽すぎる光景だった。

 

 ゲッコーさんとS級さん達の活躍であったとしても、俺の従者というポジションという事もあり、総じて俺への評価と繋がっているようで、俺を見るイリーは、敬慕の笑みを湛えていた。

 さながらヒーローを見る、ちびっ子のような純粋な表情だ。

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