PHASE-1414【革製より布製で】
「そう言えば、まだ見せてもらっていないですね。新たなる装備」
「見てくれますか」
「喜んで!」
流石は製作に携わる人物。自分の携わっていない物に興味津々とばかりに、俺がマラ・ケニタルを手渡せば、喜色の表情となって鞘を見る。
「よい鞘ですね。抜いてもよろしいですか?」
「もちろん」
ゆっくり丁寧に鞘から抜けば、あらわれるのは灰色に輝く刀身。
「これがヒヒイロカネを上回ると言われる、エルフの国宝――
「見た目は地味なようですけど、切れ味は素晴らしいに尽きます」
「いやいや、これは地味ではありませんよ。とても美しい」
発言に偽りはないようで、ワックさんは切っ先から刀身と、刀全体を見る表情はうっとりとしたものだった。
「刀剣に魅入ってはいけないというのは作り手として分かってはいるのですが、これは本当に素晴らしいです」
「人間の中でも頂に立つ職人であるワックさんにそこまで言ってもらえれば、ギムロンも喜ぶことでしょうね」
「いやはや、流石はドワーフ族の中でも名のある御仁が作られただけはあります」
と、高評価。
アラムロス窟の親方様もギムロンには殿と敬称をつけて呼んでいたからな。
それだけの実力者って事だよね。
「無骨で有りながら無駄がなく、そこに美しさが生まれる」
ギムロンが製作しているというのが分かる部分は、刀の握り部分である柄にグルグルと巻いているだけの黒革による柄巻き。
自身のご自慢のミスリル剣でも同様の拵えだからな。
職人の個人的な特徴が出ている部分でもあるのかもしれない。
「ドワーフ族の技量もさることながら、この下緒はエルフの物ですね?」
「そうです」
エルフ伝統の技法からなるミスリル製の紐。
ミスリルという鉱物から作られているのに、感触は針金のようなものではなく、上質な絹糸を思わせる手触り。
これに関してもワックさんは褒めちぎっていた。
そして、
「素晴らしい」
と、常に発し続ける称賛の中で、納刀から俺へと返却。
「良い物を見せていただきました。更なる高みを目指す為の刺激にもなりましたよ」
「今以上の技量をワックさんが習得すれば、魔王軍も恐れ戦く装備が生まれそうですね」
「期待していてください」
「もちろんですよ。そして魔王軍を撃退して平和になった時には、ワックさんには子供たちが喜ぶような物を作る存在になってほしいです」
――名前が俺がいた世界の人物にそっくりだからね。ついでに見た目も。
なので、その人物のような作り手になってほしいよね。
「子供が喜ぶ物を作る――ですか。脅威を倒すための利器ではなく、次の時代の担い手となる者達を喜ばせる。目指すべき道として悪くないものですね」
そう言うワックさんの表情は屈託のない笑みだった。
久しぶりの再会だったけど、ワックさんの優しさに変わりはなかった。
ゴロ太が慕っているんだから当然といえば当然だけどな。
「おっとそうだ。ワックさんにお願いがあるんですけど」
「なんでしょう?」
「俺の左肩にこの小悪魔――ミルモンが安定して座れるような物を付け加えてほしいんですけど」
「お安い御用です」
と、即答が返ってくる。
「期待させてもらうよ職人さん♪」
ミルモンのちょっと上からな発言にも笑顔で返すワックさん。
赤と黒のスタンダールカラーからなるブールポワンデザインのブリガンダインを脱げば、早速とばかりにワックさんが作業に入る。
火龍の鱗は欠片一つも無駄には出来ないからと、わずかに残ったものも大事にとっておいてくれており、それを使用して取っ手を拵えてくれるという。
「やり手なんだよね?」
「もちろんだ。この世界においてドワーフやエルフも驚くほどの高い技量を持っている人物だと考えてくれればいい」
「へ~。オイラにこのサーベルをくれたギムロンのおっちゃんよりもかい?」
「あ~どうだろう。どっちにしろ二人とも技量は高いからな。凄い二人ってことでいいんじゃないか」
ワックさんとギムロンが作ってくれた刀を二振り佩いている以上、この二人を比肩するのは失礼だ。
二振りとも俺には不釣り合いな最上大業物だからな。
――。
「お待たせしました」
「いえいえ、まったく」
ミルモンと談笑する小一時間の間に仕立ててくれるという手早さ。
火龍の鎧を着れば、
「おっ、取っ手がついてる」
注文通りのモノを拵えてくれた。
従来の二色からなる鎧の差し色とばかりに、金塗りの取っ手が二つついている。
早速とばかりにミルモンが左肩に座り、両手で取っ手を掴む。
「これはいいね♪」
上機嫌だ。
「これなら振り落とされないよ。兄ちゃんもオイラに気を遣わないで高速戦闘ができるね。座り心地も最高だよ♪」
二つの取っ手の間には、ミルモンが長時間座っても問題ないようにクッションもある。
クッションは鎧の色に馴染むように同色のものだ。
「革製か布製かで迷いましたけど、後者にしました」
「いいんじゃないでしょうか」
「見た目と耐久性だと革製がいいとも考えたんですが、座り心地を優先しました」
「ある人が言いました。レザーなんて見かけだけで夏は暑いし、よく滑るわ、直ぐヒビ割れるわ、
「そうなんですか」
「そうなんです。だからこのクッションが正解だよな」
「だね♪」
座り心地は抜群のようで、ミルモンはご満悦。
その表情を目にしてワックさんもそれを選んで良かったと微笑みで返してくれる。
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