PHASE-1413【久々、黒縁、赤帽】

「主の様々な方々と絆を結んでいくという才能。本当に素晴らしい才です」


「俺じゃなく、皆の存在があったからこそ繋げた絆ですよ」

 俺一人だったら繋ぐことなく異世界生活即終了だっただろうからな。

 プレイギアから召喚した面々、この世界の面々が支えてくれたからこそだ。

 特にギルド運営においての先生の存在はあまりにも大きい。

 優秀な人材を見抜いて登用するなんてこと、俺には出来ないからな。

 ここまでギルドが大きくなり、且つ王都が繁栄しているのは先生が辣腕を振るっているからこそ。


 ――この他にも俺の領地であるミルド領からは、高順氏が願っていた人材だけでなく、調教を済ませた軍馬も送っており、数日で要塞に到着予定だという。

 要塞から王都に戻って数日の間で、願っていることが実現するんだからな。

 素早い対応に、要塞指揮の高順氏の驚く顔が目に浮かぶというもの。

 先生と荀攸さん。爺様が才能を発揮しまくっている。


 各地との物流も今まで以上に活発のようだし、それにより王都だけでなく各地が栄えていく。

 ハダン伯には悪いけども、やはり商人さん達はお互いに競い合うことで発展してもらうのがいいようだな。


「さて、主には書類に目を通す仕事が――」


「すべて先生に任せるので、俺は王都を見て回ろうかと。遊ぶわけじゃないですよ。一大決戦となる天空要塞の為に準備をしたいので」

 押印作業は全力で回避したいです……。


「主に代わって私が目を通しておきましょう。そして簡略してお伝えします」


「流石は天下一の尚書令様」


「天下一とは誇張が過ぎますよ」


「俺の評価では天下一なので」


「本当に主は人を誑し込むのが上手いですね」

 なんて言いながらも喜んでくれている。

 今日はたくさんの笑顔を見せてくれる。

 昨日の精神的疲労は吹き飛んでくれたようだね。


「では、ちょっと見て回ってきます」


「供回りは?」


「大丈夫ですよ。王都は治安が良いと昨日、先生がハダン伯にも言ったじゃないですか」


「そうでした」

 もし何かあったとしても自分で対応しないと勇者じゃないからね。

 公爵という面から見れば誰かと行動した方がいいんだろうけども。


「オイラがいるから問題ないよ!」


「だな。俺には魔界の勲功爵がついてくれています」


「では頼りになる勲功爵殿に主の護衛をお任せしましょう」


「任されるよ♪」

 俺の左肩で立ち上がり、先生に胸を張って自信満々に返してくれるミルモン。

 

 ――そんなミルモンとギルドハウスを出て向かうのは、鍛冶屋とはまた違った場所。

 でも建物の内部は似たようなもの。


「お久しぶりです」

 頭を下げれば、


「本当にお久しぶりですね。勇者殿」

 同様の動作で返してくれる。


「お元気そうで何よりです。ワックさん」

 黒縁丸めがねで赤いハンチング帽といった風貌は変わらない。

 本当に子供の頃にテレビで見ていた人物そのものですよ。

 違いはキャップじゃなくてハンチングってだけ。

 

 ワックさんの作業場に来るのも久しぶりだな~。

 俺の装備一式はここで生まれたんだからな。


「勇者様」


「あら、ゴロ太もいるのか」


「ボクのお仕事は、ここでのお手伝いだからね」

 マヨネーズ容器体型のぽよぽよボディの愛らしい姿に反し、渋声を発する子グマが走って俺のところまでやってくる。

 走っているんだけども、テクテクとした歩みにしか見えず、可愛さに心を奪われそうになる。


 ゴロ太がいるとなると――、


「ベルは?」

 ――絶対にいると思ったが、今のところ姿は見えない。


「お姉ちゃんには作業の時は来ないようにしてもらってるんだ」


「ああ、そうだったな」

 ゴロ太が危ない作業をするとなれば、常に危険だと言って仕事をさせないという事になるだろうからな。

 本人はゴロ太のことを思っての行動だろうが、過保護すぎて作業の邪魔となれば、ゴロ太の好感度を下げてしまうからな。

 お姉ちゃん邪魔! とか言われれば、寝込んでしまうだろうしな。

 天空要塞攻略の前に寝込まれても困るというもの。


「勇者殿、装備はどうです?」


「これらがなかったなら何度も死んでますね。間違いなく死んだと思うような一撃を受けたりもしましたから」


「火龍ヘラクレイトス様の加護のお陰ですね」


「いやいや、ワックさんがその火龍の鱗を加工して作ってくれたことで繋がっている命ですよ」

 どんだけ火龍の力が宿った籠手に頼りきっているか。

 力を引き出すために籠手に埋め込まれたタリスマンを介してのイグニースに救われてばかりだからな。

 救われすぎてそれに依存しすぎていることを反省し、自分自身でもっと対処のバリエーションを増やさないといけないと思いながらも、結局、危機的状況に陥ったら使用しているからね。

 初期の成長過程で最高の装備を手にし、それに甘え続けていることが情けないと吐露してしまう。


「ですがそれらの装備を使用しても、勇者殿は驕ることなく己の実力を高めているじゃないですか。それにより装備を更に使いこなせるようになる。なので情けないと思わなくてもいいですよ」

 火龍装備の生みの親であるワックさんにそう言ってもらえるのはありがたいが、やはり最高の装備に見合うだけの存在になるためには、地力向上に尽きるってもんだよ。

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