PHASE-989【イケメンではなかった】
「小癪!」
怒気の言葉を受けようが構ってやらない。
それ以上に体勢なんて整えさせないという強い気概で、俺は足を止めることなく鉄仮面へと真っ直ぐに進み、立ち上がろうとするところに残火による二太刀目を見舞う。
「くぅ!」
「入った!」
二太刀目は後ろ袈裟から下段に移動させていた刃を返し、勢いよく斬り上げるもの。
俺の斬撃を防ごうとするが、抜刀術からの片手持ちの状態である鉄仮面。
力は俺が有利。しかも両手持ち。防ごうとするミスリルの刀身を容易く撥ね除けながら相手に苦痛の声を感じさせるだけの一撃を入れる事に成功。
咄嗟に上体を反らしたようだが――、
「これで素顔を拝む事が出来るな」
相手が人間であっても全力による斬撃を行えた。
体を反らされたことで頭部にダメージは深くは入らなかったようだが、鎧同様に立派なエングレーブからなる鉄仮面は勢いよく宙に舞う。
――フルフェイスからなる仮面が地面へと落下すれば、カシャーンと金属音を奏でる。
何とも軽やかな音だった。
魔法付与により強化されている鎧みたいに、仮面も同じ処理が施されているようだ。
実際は重量のある代物なんだろうが、魔法によって軽量化されているのは、落下時の音で分かる。
鉄仮面に施した魔法付与も気になるが、それ以上に――、
「あらら?」
鉄仮面が地に触れた時の軽やかな音が似合うような素顔を見る事が出来た。
「あれれ? もしかしなくても――女……か?」
しかもとびきりの美人様?
仮面の下はイケメン様ではなく美人様?
「団長!」
「騒ぐな。大したダメージはない」
女なのかと見入っていたところで俺の動きが止まってしまう。
仮面時のくぐもった声を裏切るかのような透き通るような声は、間違いなく女性の声。
動きが止まる俺に対し、機に乗じてとばかりに体勢を整えた鉄仮面――団長はつと立ち上がり、額から流れる鮮血に、回復魔法であるファーストエイドを唱えて即治療。
「どうした? 女とは戦えないか?」
「いや別に」
「流石は勇者だな。男女関係なく力を振るう事が出来るようだ」
「それ褒め言葉かよ」
「女だという事でなめられるよりはいいと思っている」
ならいいけど。こっちとしては皮肉にしか聞こえないからな。
「だが、動きが止まったことは私をなめている証拠だろう。女を下に見ているようだ」
「ただビックリしただけだよ。鉄仮面の時はくぐもった低音声だったから余計にな」
実際は綺麗な声なんだもの。
にしても、男尊女卑に激しい嫌悪感を持っているようだな。
俺はフェミニストではないけど、男女同権の考えではある。
大体が――、
「女だからって下に見るわけがないだろ。俺の周囲を見てみろよ。強いのばっかりだぞ。説得力あるだろ」
「確かに――な」
理解が早くて何より。
実際、団長だってベルの圧をその身で経験してるし、リンの
俺の発言に説得力があるのは当然だろう。
男女平等の名の下に、コクリコと全力で戦ったこともあるしな。
あの時は怒りのままにカルロ・ヴェローチェでミンチにしてやろうと追いかけ回して泣かしたもんだ。
にしても――、
「どうした?」
えらい美人さんだな。
切れ長の目に碧眼の瞳。
そして鉄仮面から解放されて露わになるのは、腰まで伸びる白髪。
――……目立つ髪ではあるけど、現状、白髪になってしまっているベルのものとは大きな違いがあった。
ベルのが白銀の輝きからなる美しい髪なら、美人団長のは……、
「この髪が気になるようだな」
「あ、いや……」
「老人のような活力のない白髪だと口に出したいのだろう」
――……思っていたことを言われてしまって、返すに返せなかった。
実際、爺様の白髪混じりの金髪に似ている。
ハリ、ツヤ、コシがないというのが正直な感想。
「なるほど――そうか……」
髪の質感が爺様と似ていると思っていれば、その爺様がこちらに向かって口を開いた。
その瞬間、眼前の美人団長は柳眉を吊り上げ、切れ長の目を更に鋭くする。
物を断ち切れそうな迫力が伝わってくる炯眼を向ける先は――、口を開いた爺様。
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