PHASE-990【禍根】
「髪の色が変わりすぎて直ぐには分からなかったが、ドルカネス伯の娘か? 目元が父親に似ている」
「黙れ!」
今までで一番の怒気が発せられる。
でも爺様は気圧されることはなく、
「なるほど。そのミスリル刀、刀装の作りが随分と変わったが――」
「黙れと言っている!」
突如として俺の前から消える団長。
向かう先は理解していたので、俺も負けじとアクセルを使用。
体を向ける先は爺様の方向。
しかし後発の俺では、爺様のところに移動する間に爺様が斬られる可能性もある。
が、その可能性の確率を大いに下げてくれる存在がいてくれるのは有り難い。
夜空の下でリーンという小気味の良い音が奏でられる。
――流石はスティーブンス。
「鋭き神速の抜刀ですが、怒りをそこまで発していれば動きも分かりやすいというものです」
爺様から拝借した杖からミスリル刀を抜刀。
団長の一太刀を見事に捌いてくれていた。
「そこから離れろ!」
背後からの俺の牽制で団長は舌打ちと共に離れる。
「ゲッコーさん!」
矢継ぎ早に名を発せば、
「プレヴィス」
と、一言。
「了解」
と、一言バラクラバの一人が応じ、即座に爺様の側面に音も無く佇む。
これには爺様だけでなく、スティーブンスも驚いていた。
出来る執事であるスティーブンスも、S級さんの歩法には太刀打ち出来ないご様子。
プレヴィスさんと呼ばれたS級さんが一人立つだけで、そこは結界となる。
これで爺様たちは問題ない。
鉄仮面の美人も、プレヴィスさんの存在によって接近は難しいと理解。
柳眉を吊り上げ不快感を表すも、爺様へ再度仕掛けることはせず、睨むだけに留めたのは敵ながら見事だと思う。
無謀な突撃を行わないのは有能の証だからな。
「刀だけでなく、鞘の拵えも変わりすぎていたので分からなかったが、そうか――ドルカネス伯が常に佩いていた愛刀か」
「だから黙れと言っている!」
「確か一人娘の名は――」
「我が名はマジョリカ・マジマドル」
「ミドルネームであろう――マジョリカは。マジマドルは自身で作った偽りの姓だろうか? エレクトラ・マジョリカ・ドルカネス」
「覚えているのだな。父を奪った者よ」
「何をおっしゃいます。ランスレン様は――」
「スティーブンス。奪ったと言われればそれは真実である」
「そうだ! 真実だ! 貴様は私達から全てを奪った! 我が一族の家宝であるこの刀もこの様に醜悪な刀装に変えられてしまった! 欲深な豚によって!」
「欲深――ロブレス伯か。私が寝たきりの間にカリオネルによって誅されたと聞かされている」
「ああ、貴様の愚息も役に立つ。あの豚を始末できたし、醜悪になったとはいえ、家宝も我が手に戻った」
ロブレス伯爵なる貴族は、カリオネルによって不正を暴かれ、傭兵団が動員されて誅されたという。
実際はこの美人――、マジョリカ・マジマドルこと、エレクトラ・マジョリカ・ドルカネスがそう仕向けさせ、自らの手でロンブレス伯爵を殺害したと声高に発す。
本来、誅するなら正規軍が動員されるんだろうけどな。
カリオネル……。ここでも言い様に動かされたな……。
俺がミルド領の領主になる前の話ということもあって、俺はこの話の内容を耳にしたことがなかったが、寝たきりの状態から目覚めた爺様は、自分が眠っていた間に起こった出来事をスティーブンスから詳らかに聞いたという。
「ロブレス伯は悪い噂も多くあったが、それでもミルド領全体の為に従事したのも事実であった」
「くだらん! あの者の野心によって隣領であった我が父は害を受けた。結果、陥れられ謀反人あつかい。そして無実の父を討伐するため、ミルド領内の諸侯に下知を下したのは貴様だろうが!」
「反論はするまいよ」
「そこまで平然としていられるのは、心根が腐っているからか!」
「では、謝罪でもすればよいのかな?」
「ゲスが!」
二人の会話だけで全てを理解するのは難しいけども、爺様の下した判断でこういった禍根が生まれたというのは理解した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます