PHASE-991【V3】
爺様が生み出した禍根。当然ながらこれは他人事ではない。
現当主は俺なのだから、俺にもこの恨みは反映されるし、同様の案件が発生した場合、爺様のように決断を下さないといけない時も来るかもしれない。
領主として背負わないといけない責任――業を見せられているようだった。
軋轢の経緯は今のやり取り程度では分からんし、どちらに大義があるのか。どちらにも大義があるのか。
それはまだ判断しかねるが、様々な感情の渦が生み出す重圧に耐えつつ、案件をこなさないといけないというのは理解できた。
俺の場合、荀攸さんと爺様がいる分、爺様の統治時よりは楽なんだろうけど。
領主としての立場を俺なりに考えている最中にも――、
「だがな。ドルカネス伯も心のどこかに野心があったはずだ。だからこそ言い訳もせずに我々に剣を向けてきた」
――会話は続く。
「ロブレスが陥れたからだ!」
「ならばそれを私の前で弁明すべきだった。それをしなかったという事は――」
「黙れ!」
「聞く耳はもたんか。激情も父譲りだな」
「淡々と言うものだ。我々がどれだけの道を歩んできたかも知らずに!」
「知らせてくれたのか?」
「この老いぼれ! もういい。貴様にはしっかりと絶望をくれてやる! 貴様に新たな欲が芽生えた原因である現当主の首を目の前で斬り落としてくれる!」
あ、結局は俺にも恨みがぶつけられるのね……。
プレヴィスさんもいればスティーブンスもいるから攻められないってのもあるだろうけど、やはり義理とはいえ孫の命を奪う事で絶望を与えたいという思いが強いんだろうな。
「無駄なことだ。我が孫は勇者である。エレクトラ嬢、君の愛刀は届かんよ」
「私はエレクトラではない。マジョリカ・マジマドルだ」
「冷静ではない現状では、聞く耳はもたんか……」
やれやれと爺様は力なく首を左右に振り、
「トールよ。その者が手にする刀の力は鞘にある」
と、継ぐ。
なにそのエクスカリバーみたいな設定?
――爺様の説明では、鞘の内部には鐺から鯉口までの間に、等間隔にてタリスマンが仕込まれているそうで、術者のある魔法に反応して鞘の内部で力を発生させるそうだ。
その魔法とは、インジェクションという風魔法なのだそうだが、初歩の下位魔法とのこと。
本来の使用は、至近にて目標に向かって強い風を噴出する牽制魔法。
だがこの鞘の場合、タリスマンがその魔法に反応し、鞘内でその魔法の効力を増幅させる。
使用者の抜刀を助力するように、鞘内部に等間隔に埋め込まれたタリスマンが鐺部分から反応していき、鯉口付近まで続く増幅の連鎖によって、使用者の抜刀術を神速のものへと昇華させるという。
これが目では捉えられない神速の抜刀術のタネ。
神速の秘密に俺はロマンを感じる。
琴線にしっかりと触れる抜刀方法だ。正直、俺もその刀を使ってみたい。
爺様が説明をする中でも、マジョリカは睨むだけに徹していた。
プレヴィスさんの存在もあるけど、別段、種明かしをされても困らないというのもあるんだろう。
分かったところで神速の抜刀に対応する難しさは変わらないからな。
「話聞いて思ったのは――あれだな。鞘の発想が――ええっとなんだっけ? 報復兵器の――あれだ、ロマン砲的なヤツ」
「V3・15センチ高圧ポンプ砲。別名、タウゼントフュスラーの事かな?」
「そう、それですよ。有り難うございます」
教えてくれたプレヴィスさんにお礼を言いつつ美人団長に目を向ければ、俺達の会話なんて意にも介さず、爺様を睨んでいた目力を衰えさせることなく俺を見やり、
「破邪の獅子王牙団長、マジョリカ・マジマドル。二つ名は刹那のマジョリカ」
「おう」
ここでようやく自己紹介。
しっかりと二つ名もあるし、神速の抜刀からその二つ名が生まれたというのも分かるというもの。
「我が一族の家宝にして愛刀――
「全力で拒否させてもらうし、ここでお宅をしっかりと倒させてもらう」
刹那に瞬といったネーミング。
速さに全振りのスピードタイプ。
こういったタイプはレッドキャップスで経験している。
「さあ来い」
「フリーズランサー」
初手は魔法ですかい……。
パターン変えてきたね。
槍サイズの氷塊を放つと同時に俺の視界から消える。
氷塊を回避したところで、背後から姿をみせるマジョリカは抜刀の構えを終えていた。
後は抜くだけ。
「おら!」
残火の鞘を腰から外して背後に向かっての突きを行えばバックステップで回避。
アクセルから抜刀に繋げるのがスムーズではないマジョリカだけども、魔法を使用する事でこっちに隙を作らせ、抜刀に繋げる遅れを補う戦法のようだな。
実際、効果的だよ。背筋に冷たいものが走ったからな。
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