PHASE-309【大きい方は更にそっくりさん】

「怒ってるよね~」

 危機感のない語気だな。

 その余裕は強者の証と信じていいのか? シャルナ。

 揺れる地面と共に、新たに加わる音はバキバキといったもの。

 眼界の木々がなぎ倒されていく。

 舞い上がる土埃に、手にしたプレイギアを向ける。

 一対の青い輝きを捉えることが出来た。

 先ほどまで戦っていたヤツと同じ輝き。

 違うのは輝きが大きいということ。


「ギギギギギ」

 金属と金属が擦れるような、耳を劈いてくる音が一帯を支配する。

 不快な音に耳を塞ぎたくなる。

 渋面になっている中でシャルナを見れば、やはり不快な音のようで、笹のような長い耳が上下にピクピクと動いていた。


「オウ……イェ……」

 濛々と上がる土埃の中から、けたたましい金切り音と共に姿をはっきりと見せる大きな存在。

 ほら見たことか……。

 ド本命だよ。

 ○の中にCの入ったマークに完璧に引っかかるヤツですわ……。


「どうすんだよ……これ……」


「戦うんでしょ」

 さっきから本当に軽い口調だよな。

 実力は知っているけども、胸元の認識票が頼りないぜ。

 

 最近だとタチアナが白色級バーンになったが、お前は実力があるはずなのになんで黒色級ドゥブのままなんだよ。

 頑張るとか言っていたが、頑張ってなかったのか?


「なんで黒なんだよ……」

 ついつい思っていることを呆れ口調で出してしまった。


「仕方ないじゃない。討伐系はやってないもん。採集を王都近辺でやってただけだし。私にとっては渡りに船だよ。この状況は」

 なるほど。さっきから声が軽くて明るいのはそういう事ね。


「つまりはコイツを討伐すれば」


「荀彧は位階を上げてくれるよね」

 呼び捨てとか! 二千歳近いからこそ出来る発言だな。

 ゲッコーさんでも殿ってつけるのに。

 先生って、呼び捨てに出来ない雰囲気を醸し出してるのにな。やはりシャルナはその辺は強いよな。

 年の功だな。

 

 さてさて。では、コイツを倒すにしても情報を得ないとな。

 プレイギアで捕捉しているでっかい百足のデータを確認。

 相手は金切り音を出してこっちを威嚇しているからその隙に――――、


【分類・インセクト】

【種族・アジャイルセンチピード(成体)】

【レベル41】

【得手・猛毒】

【不得手・火】

【属性・本能】


 ――――なるほどね。


「レベルは41か」

 現状の俺より3高いが、これ以上のヤツを倒してきたからな。

 ベルやゲッコーさんはいないけど、シャルナはコクリコと違って頼れるからな。

 でも、弱点が火ならコクリコに頼りたくもある。


「どうする? コイツ毒持ってるぞ。しかも猛毒だ」


「触れるだけでなく、吸っても駄目だからね」

 そんなつもりは毛頭ないから心配するな。


「ギギギギチギチ」


「うへ……」

 鎌首を上げれば四、五メートルはある。

 上半身だけでこれだけの迫力。

 体長は二十メートルくらいはあるんじゃないだろうか。

 顎の長さも優に一メートルは超える。

 幼体の体長と変わらないくらいの顎だ。

 顎は外側が厚みがあり、捕らえる内側は鋭くて薄いノコギリ状。

 噛まれればそこから両断されそうなイメージを与えてくる。刀剣を二振り口部に取り付けているようなもんだな。


「幼体はナイフだけど、成体の顎は立派な刀剣になりそうだ」


「幼体と違って、外骨格は頑丈で防具にもなるし、長くて大きな翅も素材として重宝するよ」

 なるほど。

 となると、先ほどみたいに容易く斬ったり、突き刺すってのは難しくなるわけだな。


「しかし、見れば見るほど……」

 風の谷の近くにいるやつそっくりだな。

 成体のサイズを見れば、とくにそう思ってしまう。

 有りがたいのは、外骨格の色が紫黒しこくってところかな。

 色は違う。

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