PHASE-308【Gより怖くない不思議】
「凄いな。顎は頑丈だ」
まだ脅威は過ぎ去っていないから亡骸は瞥見。
頭部は叩き割ったが、最初に触れた顎には傷は入っていない。
「使えそうだな」
「いい素材だよ」
サイズからして、ちょっと加工するだけで頑丈な良いナイフになりそうだな。
G装備はごめんだが、記念にコイツの顎でナイフを一本作ってもらおうかな。
だが、森の生態系のトップというわりには簡単な相手だ。
一体を仕留めれば直ぐさま次が来る。
数が脅威なのだろうか?
シャルナが言うように俺のライトが原因のようで、正の走光性とばかりに、四体が俺に向かって勢いよく迫ってくる。
素早い動きと、どれからターゲットにするべきかと判断を強いられるが、それを緩和してくれるように、シャルナが矢を放ち頭部に命中させる。
ワンショットワンキル。格好いい。俺も格好良く弓を使いたいもんだ。
更にもう一射。追加でダウン。
残りの二体は俺への接近に成功。
片方だけでも二十センチほどありそうな顎を開いて迫ってくる。
「ラピッド。タフネス」
その場で跳躍すれば、迫ってくる二体のうちの一体の上をとり、
「シャァ!」
鋭い気迫を発し、それを刀に宿らせるイメージですれ違い様に横薙ぎ。
頭部後ろの体節から断ち切り、残り一体に対しては、木の幹を蹴って空中で軌道変更して翻弄する。
急ぎ反転して俺を食らおうとする頭に目がけ、逆手で持った刀を突き立てながら着地。
体重を乗せたまま着地すれば、突き立てた刀身は頭部を容易く貫き、地面に深く突き刺さる。
バタバタと羽を動かしていたが、すぐに大人しくなった。
まるで昆虫標本のようだ。
「ふん!」
深く刺さった刀を抜いて、体液を血振りの要領で振り落とす。
それでも刀身に残る体液は、
抵抗なく肘窩に挟めるのも慣れだな。以前なら、ばっちいとか言って拭くことも憚ったのに、自分の服で拭くことに抵抗がないんだからな。
たくさんの節足からなる見た目は気持ち悪いが、
「ダイヒレンに比べると大丈夫」
見た目は足がいっぱい有るこいつも十分に不気味なんだけどな。
それでもダイヒレンの方が怖い。
「だよね。不思議だよね」
と、シャルナもダイヒレンのほうがなぜ不気味なのか説明が出来ないようだ。
テカテカボディでカサカサと動かれるのが原因だとは思うんだが――。
ま、俺に素敵な時間を与えてくれたから、不気味であっても記念硬貨にはしてあげるけどね!
「なに?」
「いや別に」
シャルナを見て思い出す。
ダイヒレンというでっかいGに、キャアキャア言って俺に抱きついてきた事を――――、
素晴らしき感触だったな。
ありがとうダイヒレン!
とまあ、この余裕。
「はい、終わり」
更に森の奥から現れた百足たちを討伐。
最初は不意打ちと見た目に驚いたが、戦ってみるとそんなに難しい相手ではなかった。
顎は強靱だったけど、外骨格は簡単に両断できた。流石はギムロンの刀だ。
「とっ」
とりあえずこいつらのデータを調べてみる。
プレイギアのアプリを起動してカメラモード。
ディスプレイに映せば――――、
【分類・インセクト】
【種族・アジャイルセンチピード(幼体)】
【レベル13】
【得手・――】
【不得手・火】
【属性・本能】
属性が本能なのは、虫として理性とかで行動していないって事なんだろうな。
レベルは13か――。
脅威じゃないのは理解できるな。
だが種族項目で気になる箇所があるな。
「――――幼体?」
「そうだよ。いま倒したのは幼体。幼体で素材になるのは顎くらいだね」
言いつつしっかりと黒石英のショートソードで、顎部分を回収。
一つを俺に投げてくる。
ナイフを記念に作ろうと思っていたから、籠と共に持参した背嚢に、布に包んでから仕舞う。
嬉しそうに次々と顎を採取する作業中に申し訳ないんだが、
「これ子供って事? こんだけデカいのに?」
「そっ」
こいつは簡単に返してくるよね。
でもだよ、子供を倒したとなるとだよ……。
――……ゴゴゴゴッと、なんとも素晴らしきご都合主義なタイミングだ……。
思っていた矢先に地面が揺れる。
遠くから、今までしなかった鳥の鳴き声が聞こえてくる。
危険を察知して、今ごろこの森から飛び立っていることだろう。
いや~、嫌な予感しかしない。
間違いなく、今度のがド本命で、風の谷の近くに出て来るサイズだろう。
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