PHASE-307【翅蟲のそっくりさん現る】

「まだ出くわしてないから有りがたいけど、この辺の生態系の頂点ってなに?」


「アジャイルセンチピードかな」

 センチピードって事は百足か。

 名前からして素早い百足って感じだな。


 ――――鬱蒼と生い茂る草木に木々や、下生えをかき分けてひょいひょいと素早い目利きで素材を採取していく姿は、流石は森の民だと感嘆する。


「で、大きさって?」

 採取をしつつ百足のサイズを質問する。

 Gがデカいんだからな。聞いといてなんだが、分かる気はする。


「大きいよ」

 やっぱりな……。

 ウォーターサイドとかいう巨大ワームもそうだったし、体節系は嫌だな~。

 デカくて長いとか本当に勘弁してほしい。


「やっぱ強いのか?」


「試してみれば?」


「は?」

 シャルナが指をさす。

 その方向は俺の直上をさしていた。

 このパターンは嫌な予感しかしないが、従って見てみれば、


「ひょ!?」

 ガチンと金属同士がぶつかるような音。

 咄嗟に地面に伏せる事で、鬱蒼とした下生えに身を潜ませる。

 一瞬のことだったからよく分からなかった。

 恐る恐る草木をかき分けて状況を窺えば、木々の間をうねるように飛翔する生物は、陽光の恩恵がない暗がりの中に消えていった。


「アレか!」


「そう、アジャイルセンチピード」


「百足は空を飛ばない!」


「ううん。百足は空を飛ぶよ」

 なんて曇りなきまなこ。嘘じゃないってのがよく分かる。

 クソ! 異世界の常識は、俺にとっての非常識!


「来るよ」

 反転してきたのか、暗がりから青く光る目が現れる。

 ――と……、


「なんで俺に向かって来るんだよ!」


「だって光を放っているから」


「うわ~虫みたいな習性」


「虫だし」

 ですよね……。

 負の走光性じゃないのも、異世界では当然のようだ。


「備えて」

 音も無く跳躍して枝に飛び移るシャルナが矢を番える。

 クラックリックと違い、ゆがけは使用せず、素手で弦を引く。

 鏃が向くのは俺に目がけて接近してくる百足。

 

 近づいてくれば風貌がはっきりとしてくる。

 クワガタのような顎。

 先ほどのガチンと響いた金属音に似たものは、あの立派な顎が原因のようだな。

 現在、顎は左右に開ききった状態。百八十度くらい開いている。

 で、そのまま俺に向かってくる。

 空中を飛翔し、木々を蛇行しながら避けつつ接近。

 飛翔できる原因は、外骨格に備わった蜻蛉のような二対からなる四枚の翅。それを羽ばたかせて大きな体を飛翔させている。

 

 ――……ていうか…………、


「あいつ、風の谷の近くに住んでるよね? 腐海あたり」

 

「風の谷ってどこ?」

 大きさはこっちの方がまだ可愛げがあるけども。まあ、それでも錦蛇くらいはある。

 空飛ぶ一メートル超えの節足動物とか恐怖でしかねえ。

 いや……、本当に……。大丈夫なのかよ。

 ワック・ワックさんでも大概なのに、これ○の中にCが入ったマークに引っかかりそうなそっくりさんだよ。


「よっと」

 軽い口調の中に鋭さを潜ませるシャルナが弦を放す。

 クラックリックとは違って、放たれた矢も弦も静謐そのもの。

 強弓からの風斬り音などは皆無だ。

 弓には弦が張っていないと勘違いさせるほどの、静寂なる技巧。


 ――でも、


「ギュ!?」

 でっかい百足から、軋む音に近い鳴き声が上がり、鬱蒼とした下生えへと力なく落ちていった。

 落下は、音は無くとも間違いなく矢が放たれた証拠だ。

 これが俺の指呼の距離で起こった事。


 警戒しながら落ちたところに接近すれば、矢は見事に頭部に深く突き刺さっており、すでに事切れていた。

 苦しみもなく、驚きに襲われたと同時に死を迎えたって感じだ。


「お見事」


「ありがと。でも、油断は禁物。まだ来るよ!」

 碧眼は暗い空間を見つめる。

 力のある目だ。


「おお!?」

 言うように暗がりから出現する空飛ぶ百足。


「インクリーズ」

 発動すれば体の奥から漲ってくる力を感じる。

 白刃を鞘から走らせ、空中を蛇行しながら接近してくる百足へと向けて構える。

 変則的で素早い動き。

 狙いを定める為の目印として、一対からなる青く輝く複眼の近くに目がけて上段から振りおろす。

 ガキンと、利器のような顎に刃が当たり、金属音に似た音を奏でる。


 俺は押し切るようにそのまま力任せに斬撃。

 ギムロンが打った数打ちの刀は、百足の頭部を叩き割るには十分な切れ味である。

 シャルナに比べれば雑だが、俺も一体、仕留めることが出来た。


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