PHASE-306【エルフも色々】

「本当に大丈夫か? 灯りが必要なくらい暗いんだけど」

 日はまだ高いってのに、不気味なくらいに暗く、獣道も無い。

 道無き道を胸ほどの高さまで伸びた下生えをかき分けながら歩く。

 横から飛び出た枝木がピシピシと顔に触れてくれば、未だ完治していないから、ズキズキとした痛みに襲われる。


「灯りつけようぜ。俺、持ってきたから」

 前回の洞窟の反省を活かし、ゲッコーさんから軍用ライトを借りた。

 25000ルーメンとかのライトを借りたかったが、そんなもんは常時では使わないと言われて、3200ルーメンで十分と言われ、且つ、人の顔には向けるなよ。と、睨み利かせて忠告してきたので、俺は素直に首を縦に振った。

 だって、怖かったんだもん。


「私は大丈夫だけど。エルフは暗がりを見通せる目をもっているから」


「ドワーフみたいだな」


「まあね」

 ――ほほう。


「え、なに?」


「いや、ドワーフと比べられると、イラッとするのかと思ったんだけど」

 ファンタジーの定番だからな。エルフとドワーフの仲が悪いのって。


「そういう考えを持つ者もいるけど、私は冒険をしてるからね。考え方が豊かなの」

 胸を張って豊かと発言するところで、胸も豊かだという発想が生まれる辺り、俺は心底エロなんだと思ったよ。

 殴られるのは嫌なので、感情にも表情にも頑張って出さなかったけどな。


「大体、種族間のいざこざとか嫌いなんでしょ。トールは」


「おう! くだらない争いとなる元は断ちたい派だ。魔王軍を喜ばせても意味がない」


「私もその考えに賛同だね。エルフ間でもくだらないいざこざがあるし。嫌になる」

 ――――ハイエルフ。エルフ。ハーフエルフ。ダークエルフと種族があるそうで、その中でも頂に立つ種族がハイエルフ。

 で、シャルナはその中の存在だ。

 他のエルフと違い、不老に近い存在で、知識に富み、魔法も卓抜。

 他のエルフだけでなく、他種族から見れば正に賢者のような存在。

 でも、ハイエルフの悪いところは優秀が故に、他を見下す傾向があり、傲慢でもあるそうだ。

 シャルナはそれが嫌で故郷から出て冒険者になり、動植物の保護なんかにも力を入れている出来たハイエルフなのだ。

 出来すぎて、風紀委員とか余計な組織を作り出すのが玉に瑕。

 当の本人も、ハイエルフとして融通の利かない所があるというのは自覚しているようである。

 融通を利かせて、風紀委員という組織解体に協力してもらいたいよ。

 

 それでも――――、


「お互いが歩み寄るきっかけを作るためには、お互いが見識が広ければいいんだよな。シャルナみたいに」

 と、素直に見聞の広さは認める。


「でしょ。流石は会頭」

 美人の破顔はいいですな。

 暗がりだというのにしっかりと美貌は確認できる。シャルナの周囲だけ光に満ちているのかと錯覚してしまうね。


「いつ頃から冒険者として活動し始めたんだ?」


「つい六百年前くらいかな~」

 ――……ついの使い方が間違ってると思うの……。

 ツッコミを入れてはみたいが、相手がエルフとなれば仕方ないか。

 頑張って百年ちょっとしか生きられない人間の時間感覚で比べても、意味は無いよな。


「つけたら?」


「だな」

 L字ライトのスイッチを入れれば、


「凄いね~」

 ファイアフライもビックリな光が簡単に顕現すれば、流石のハイエルフも感嘆だ。

 異世界から来た俺たちは、なんとも便利な物を持っていると感動している。

 

 ――――やはり準備は大事だ。

 暗さに加えて下生えで足元が悪くても、しっかりとした灯りがあると歩きやすい。さっきよりスムーズに進める。


「ずいぶんと来たようだけど」


「うん、奥まで来てるよ。ほらこれ、カジタカ草。これはポーション作りの時、少量でもさっきまで採取してた、豚の蹄の一束分に相当するよ」

 コスパのいい素材だな。

 少量でポーションの生産量が上がるのはいいぞ。


「にしても、奥に来たわりには野生のモンスターに出くわさないからいいよな」


「まあ、王都近くの森だし、冒険者が活躍してるからね」

 俺ら以外にも、森の奥に入って素材集めをしているギルドメンバーや、野良の冒険者がいるみたいだ。

 シャルナの話では薬草採取とは違い、モンスターからの素材集めを目的としたのが多くを占めているようだ。

 

 おかげで俺たちは楽に採取が出来る。

 だが、絶滅までには至らないように、注意喚起はしないといけないな。

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