PHASE-710【徹夜した甲斐もある】

「まずは北の方々に今一度、話の席についていただきたいので、王都には侯爵だけでなく各地より兵を従えた有志が募っているという流布をいたします。現在、集ってくださった数よりもちょっと大げさに」

 ユニークスキルが凄すぎる人物が、円卓中央で指示棒を掌に当てながらそう言う。

 戦いになることは出来るだけ避けたいのも確かだからな。

 人間同士の戦いなんて嫌だもんな。

 亜人やモンスターには悪いけど、人間を斬るって事になると、流石に震えるだろう。

 戦う覚悟は出来ているし、この世界で多くの命も奪ってきた。

 でも人となるとな……。

 刃を向ける事になるならば、意識をしっかりと切り替えて、躊躇う心を斬り捨てないとな。

 躊躇すれば、横にいる味方が死ぬ。

 常にそう考えて行動。同じ人間であろうとも、味方と敵では命の重さが違うと暗示をかけないといけない。

 杞憂に終わらせたいからこそ、話し合いになってもらいたい。


「失礼いたします」


「何事かな?」


「東北東より謎の飛翔体と、陸上を移動する複数の物体が接近しております」

 伝達の近衛の落ち着きっぷりよ。

 これも先生のユニークスキルによる師事向上の賜物かな。

 謎の飛翔体と聞いても王侯貴族の面々も落ち着いている。


「してどの様な?」


「はっ、形状は球体に近く、鋼鉄製のようだという情報です。東北東からして勇者様が関係しているのではというのが物見の意見ですが、対空準備は滞りなく」


「うむ。よろしい」

 近衛と会話を交わす王様は鷹揚に頷き、


「トールよ、どうなのだ?」


「十中八九、我々の別働隊でしょう」


「ではトール達が確認次第、王城の庭園まで来ていただこう」


 ――――うん。


「間違いなく」

 王城尖塔に移動し東北東から迫る黒い点をビジョンで確認。

 俺が召喚したリトルバードとキラーエッグで間違いない。


「お味方でぇぇぇぇぇぇす!」

 と、横で俺の鼓膜を破壊する勢いでの大音声はバリタン伯爵。

 尖塔の直下に位置する庭園で待機する王様への伝達。


『上げるぞ』


「どうぞ」

 庭園にいるゲッコーさんからの通信に返せば、次には信号弾が上げられる。

 バシュゥゥゥと音を立て、煙が尾を引き空へ向かって直線を描いていく。

 確認が取れたとばかりに王都外周の上空で待機していた二機のヘリが動きだし、俺と伯爵が尖塔から庭園に移動したのとほぼ同じタイミングで王城上空へと飛来。


「「「「おお!」」」」

 興奮と恐怖。意味合いは違うけども、庭園に集まった皆さんは同音の声を上げる。

 

 庭園は、王都へと集った貴族豪族に追従した兵士たちが整列していても、ヘリが着陸する広さは十分にあり、二機のヘリがゆっくりと降下し――着陸。

 

 ローターの回転が緩やかになる中でS級さん達が降り立つ。

 鉄の飛竜の中から人が出てきた。と、語尾が伸びた訛りで語る兵士の方々。

 かなりの地方から来てくださったようだ。

 もちろん訛りのない語り口で驚いてくれる兵士の方々もいるけど、愛嬌のある訛りが気になってしまった。

 訛りのある声は、二十騎を率いて参加してくれた豪族さんの部下の騎兵の方々からのものだった。


「迅速に対応できたようだ」


「ええ。相手は直ぐさま戦いを放棄しましたので」

 ゲッコーさんに結果報告。

 ゲッコーさんの横に立つ王様や侯爵からも挨拶を受ければ、バラクラバの一人が敬礼で返す。

 もちろん敬礼の意味が分からない王様は、握手で出そうとしていた手を慌てて額の位置の移動させて、敬礼による返礼。

 慌てた王様の動作が中々におもしろい光景だったので、俺もだったが、王様の横に立つ侯爵も口元をおさえていた。


 ――――ちょっとした笑いも零れた後にS級さんからの報告。

 

 まずは損耗も損傷もないという報告を受けて、ゲッコーさんから素晴らしいの一言。

 指導者である人物に褒められれば嬉しいのか、若干だが胸を反らせたように見えた。

 直ぐさま戦いを放棄ということだったから、多少の抵抗はあったのですか? と、俺が問えば、あったものの本当に多少であり、脅威にはならなかったと返してくれる。


 ゲッコーさんに続いて素晴らしいと俺も口に出す。

 幾度となく徹夜を繰り返し、失敗とお目当てのキャラが来るまで忍耐強く同じミッションをリトライすることで百人全てをS級にした俺の努力は、異世界にて実を結ぶことになる。

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