PHASE-709【このレベリングは間違いなくチート】

 もし公爵サイドと折り合いが合わずに最悪の事態になったなら、後に合流する侯爵の征東騎士団を高順氏に指揮させれば大軍相手でも怖くないな。

 そうなった場合、騎士団長であるイリーに対して失礼のないようにお願いしないといけないだろうけど。


「彼の勇将が参戦してくれるのは心強い。これは我々も励みませんとな!」


「待て伯爵。まだ戦いになるとは決まっていないと言っているだろう」

 とか言いながら、高順氏が参戦すると聞いた時、嬉々とした声を上げていたのを俺はしっかりと見ていましたよ。王様。


「ですが王よ、どう言い訳しようとも王土に無断で拠点を築く時点で黒とすべきです。そのような者に話し合いを勧めたところで耳を傾けますまい」


「伯爵の仰るとおりでしょう。いくら前王弟とはいえ、この様な時に混乱を招くような行動をするならば折檻も必要!」


「流石はエンドリュー候。共に励みましょうぞ!」

 侯爵も伯爵も裂帛あふれる声音だね。

 オリハルコン装備を互いに自慢しあう辺り、王派閥の中でも武闘派なんだろうな。

 伯爵がワイルドなら、侯爵はインテリな戦い方を好みそうだ。


「ふむん。叔父上に我らは健在と戦場で見せつければ、話し合いのテーブルについてくれるかもしれんな」


「然り、然り」

 王様の重厚な声に野太い声で伯爵が相槌。

 何のことはない。王様も結構な武闘派なのかもしれないな。

 筋骨隆々だし。

 俺が出会った時は骨張った手で、今にも棺桶に体を寝かせるような感じだったのにな。

 変わるもんだよ。

 ま、ずっとそこを心の中でツッコんでいたが、別人になった理由がようやく理解できた。


 高順氏のスキルがこの世界で適用されるって事は――――、もちろん先生もってことだろうからな。


 ユニークスキル【王佐の才】


 先生のいる都市に君主がいる場合、都市全域の人物の政治力が向上。全師事の向上というスキルが発動する。

 この君主ってのは、主と呼ばれる俺はもちろん含まれるんだろうけど、王都の主である王様にも適用されるんだろう。

 というか、王侯貴族を見る限り確実に適用されている。


「……これ、チートだな……」


「何がだ? さっきからどうしたのだトール」

 ぶつぶつと独白する俺に、背後のベルが怪訝な表情になるが、そこは仕方ないと流してもらいたい。

 ベルが個人でのチートなら、先生は戦略的なチート能力を有していることになる。

 もちろんベルの力が十全の場合、一人でも戦略的な力を発揮するだろうけど、あくまで個だ。

 先生のは集団。


 王佐の才はゲーム内だと、都市全域の人物に反映する。

 つまりは同じ都市にいる君主、武将や文官てことだ。それ以外はそもそも操作ができないから反映されるって事がまずない。

 だがゲームとは違い、現実世界であるここだと、テキストに書かれている都市全域の人物に反映は、文字通り都市全域に影響するって事かもしれない。


 だから俺達が王都に戻ってくる度に王様や臣下の皆さんが快活でやる気に漲っていて、別人にでもなったのかと錯覚を覚えたわけだ。


 市井でも活気ある人々によって商いが行われているし、戦火となるかもしれない王都に残り、協力したいと言う気骨ある旅商人の方々もいたわけだ。

 木壁でも黒色級ドゥブの新米ギルドメンバー達が、油断のない警戒を見せてくれたし、王兵たちの対応も早かった。


 もちろん皆が懸命になって、王都を復興させようという気持ちもあるんだろうけど、王都の発展速度と、兵の末端に至るまでの士気の高さは間違いなく先生のスキルが反映しているとしか考えられない。


 全師事向上によって、普通に調練をするよりも、兵達の練度が高くなるという効果が間違いなく発動している。

 王都に王様がいる状態で先生がいれば、王都全体のスキルがアップするわけだ。

 いや……、まじでチートだぞ。

 パッシブスキルで王都全域の、人物の能力向上を可能にするとかやばいくらいのチートだぞ。

 聞いたことねえよ、都市規模でのレベリングなんて……。


 王侯貴族に兵士だけでなく、ギルド、冒険者。果ては一般人まで師事による能力向上対象ってことなんだからな。

 やっぱすげえよ先生は。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る