PHASE-1097【吸って、向いて、出す】
「正体を調べるにしても終わったあと。切り替えなさい――来るわよ」
「おうよ!」
リンの警告通り、四本の腕に留まっていた新たな魔法が俺達に迫る。
掻い潜って接近する俺をリンが障壁を展開して魔法を防いでくれる。
そのリンの横ではシャルナが矢を放つ。
小気味の良い風切り音が俺の横を通過。
「無駄だ!」
縦に割れた口へと目がけて飛んでいく矢だったが、太い腕によりガードされる。
シャルナの矢は体毛によって防がれ、ハラハラと床へと落ちる。
「体毛自体が鎧だな」
「ハハハッ! 我が体に傷をつけることなど不可能である!」
図体もでかくなって態度もでかくなったな。
「――いや、元々、態度はでかいか」
「死ねぃ!」
四つの拳が俺を捉えてラッシュ。
拳を掻い潜れば足によるスタンプというコンボ。
「速えな……」
攻撃を加えることが出来ないままに距離を取ってしまう。
六、七メートルはありそうな図体だが動きは俊敏。
「ダークフレイムピラー」
と、ここでオムニガルが得意とする魔法をリンが発動。
オムニガルの黒炎の柱を凌駕するものがポロパロングことガグの足元から顕現し、巨体からなるガグの全身を包み込む。
「ヌゥ!! オォォオォォォォォォオ!」
ダメージ有りってところか。
黒炎の中の声からすれば、十分に効果があるのは伝わってくる。
流石はリンが発動する魔法ってところだろ――、
「なんてな」
といった声と共に黒炎が徐々に消失していく。
原因は――、
「胸焼けや胃もたれじゃすまなさそうね」
縦に割れた口の中に黒炎が吸い込まれていった……。
それを目にする術者は呆れ口調だけども、あれって凄くね。
リンの魔法によるダメージがほぼ皆無であり、尚且つその魔法を口から取り込んでいくとか。
「グフフフ――大した威力だが、この体の前では痛痒などない」
「じゃあコレは! ウインドランス」
弓を構えるようにして放つシャルナの魔法。
体全体を攻撃するのではなく、一点集中で貫く攻め方――も、頑丈な体毛に覆われた体の前に防がれる。
「貴女ね~。私の魔法が効いていないんだから、そんなの意味ないわよ」
「なんですって!」
長い耳をピンッと逆立てるシャルナ。
「いつもの言い合いもこの戦いの後だ。それとエルフ兵の皆さんはこの事を城に報告お願いします」
会話のやり取りからポルパロングは謀反人でもあるし、目の前で巨体を誇る怪物ガグへと姿を変えた。
こうなれば兵士の方々の考えも変わる。
謀反人の氏族の護衛から、この国と王族の守護にシフトチェンジ。
一部が残って掩護をすると提案したけども、リンが邪魔なだけとばっさり。
キツい言い方だけども、この屋敷にお邪魔してからの戦闘で、正規兵と私兵の実力は理解しているから、リンの発言に俺も心の中で賛同していた。
俺やシャルナがフォローを入れなかったことから、兵士の面々も自分たちが足を引っ張ると理解したのか、皆さん素直に扉に向かう。
「行かせるものかよ!」
ガグが標的を俺達からエルフさん達に変えようとしたところで、
「こっちを見ろよ! マスリリース!」
残火とエドワードによるマスリリース。
燐光を纏った黄色い三日月が、×マークを書いてガグへと向かっていく。
「シルフィード」
「お!」
自慢の体毛ではなく風の障壁で防ぐか。
魔法よりも斬撃系のピリアの方が脅威って事かな?
――あの体毛はマナの一つであるネイコスへの耐性はあるけども、物理攻撃やもう一つのマナであるピリアには対応できないのかもしれない。
シャルナの矢を防いでいるから並の物理攻撃では意味はないんだろうけど、ごり押しスタイルの圧倒的物理なら通用するかもしれない。
「よっしゃ! ならもう一回」
確認のために再びマスリリースを放てば、エルダースケルトンの四体も参加してくれる。
スケルトンルインの下位に位置するエルダー達だけど、マスリリースはしっかりと習得していた。
息を合わせて一人と四体で放つ。
俺の黄色い光刃と違い、エルダー達のはルインと同色の赤黒い三日月。
「勇者とアンデッドが連携など汚らわしい!」
これまたシルフィードで防いでくる。
やはりあの体毛、ネイコスには強いけど、物理とピリアには弱いようだ。
追撃で俺が駆け出そうとすれば、動きで理解してくれたのか、エルダー達が再びマスリリースによる牽制。
それを利用して一気に近づき残火による一振りをと画策するところで、
「そうだ。さっき貰ったものを偽勇者とアンデッド達に返してやろう」
と、ここで長い吸気を行い、胸部が大きく膨らむと、垂直に裂けた大口を俺達の方へと向ける。
次には勢いよく黒炎は吐き出してくる。
発言内容と色味からして、リンのダークフレイムピラー。
「イグニース」
攻撃を中断してエルダースケルトン達の前に立ち炎の障壁で防ぐ。
「勇者よ――」
呆気にとられたような声を出す一体のエルダースケルトン。
「呆気にとられないで防御態勢。これ結構な威力ですんで!」
イグニースでも不安になりそうな威力なので、二段構えとしてカイトシールドによる防御陣形を敷いてもらう。
そんな中で、
「当然よ。だって私の魔法だもの」
と、得意げのリン。
「何を悠長に自慢してんだよ!」
――……はあ……。
なんとか俺だけで黒炎による攻撃は対応できた……。
「ほう、我が攻撃を防いだか」
「自分が使用した魔法みたいに言うなよな。元々はこっちサイドの魔法なんだからな!」
返す俺の声は裏返っていた。
正直やばかった。イグニースでもやばかった。
やはりリンの魔法はおっかない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます