PHASE-1171【絶望的な数字だな……】

 要となる場所の守将でありながら、引き籠もっての守勢ではなく、打って出ての攻勢という高順氏のスタイルは、魔王軍の中でも恐怖の象徴になっているということだった。

 しかも次から次へと野営地としている拠点を壊滅させられ、大部隊で挑んでもその悉くが敗れ去るという状況によって、魔王軍の末端の兵達からは北伐に対する厭戦ムードもあったりするらしい。

 

 そんな事を話してもいいのかと思うけども、デミタスは王都の攻めを担当しているのが蹂躙王ベヘモトである事から、その失態が痛快でたまらないとばかりに悪い笑みを先ほどから湛えている。


「相当に嫌いなんだな」


「ええ、お前以上にね」

 やっぱり俺以上に不快なんだな。


「嫌いになった理由は?」


「我が一族の仇だから」

 おう、普通に返してきたな。

 でも直ぐにはっとなって俺を睨んでくる。

 なんでお前にこんな事を言ったのかというような目を向けてくる。

 そして俺に言ってしまったことが馬鹿馬鹿しくもあったのか、先ほどまで纏っていた殺気が消えていく。

 察したゴブリン達が再び俺の周囲に集まれば、守るという姿勢を見せてくれる。


「いやいや……肝心な時に逃げるやん……」

 何とも都合のいい護衛に苦笑を浮かべれば、デミタスも同じような表情。


「お前は隙だらけだ。だからこちらも油断して余計な事を口から漏らしてしまう」


「それは心を許してきている……なんでもないです」

 直ぐに睨んでくる……。


「ふん――まあいいわ。ここでお前を生かすのもいいかもしれない」


「利用するってことだな。あれだ。敵の敵は味方的なポジションにしたいんだな」


「味方ではない。利害が一致しているだけ」

 ――……。


「なに?」

 いや、それも今後、味方になる展開を示唆するような発言だよね。――とは言うまいよ。睨まれるのは嫌だからな。


「利害の一致は大事」

 とだけ返す。


「私としてはどちらも弱ってくれれば最高ね。弱ったところを私が総取りすればいいだけだから」


「うわ~。俺んとこの先生が耳にすれば喜びそうな考え」

 先生の演義バージョンの計略である、二虎競食の計と同じじゃないか。


「性悪な師がいるようね」

 それって自分にもブーメランって言おうかと思ったけども、言われなくても分かっていると睨まれるのはゴメンだからここでも黙っておこう。


「励むことね。散々に利用してから最後に殺してあげる」

 悪い笑みで言ってくるよ。


「そういった考えは心の中だけで呟けよな。表情も嘘でもいいから笑顔を貼り付けとけ。リンファさんに姿を変えていた時の方がよっぽど笑顔が上手かったぞ」


「しっかりと向けてあげるわよ。お前を殺すその時に恍惚感に浸った笑みをね」

 ワオ……。

 なんて怖いんでしょ。

 でもその言い方は間違いなく味方になるフラグが立っているんですけど。

 まあアニメや漫画と違って現実ではそんな事はないんだろうけどさ。

 なんたって俺は仇だし。

 だとしても、ムーブが完全なるツンデレさんなんですけどね。


「じゃあ、利用されてやるから色々と蹂躙王ベヘモトの情報をプリーズ」


「ええ喜んで」

 本当にすんなりと受け入れるな。

 蹂躙王ベヘモトに関しては好きなだけ話すと言うだけあって、逡巡する素振りもなく快諾なんだからな。

 俺に対する恨みよりも強くて大きいってのがよく分かる。


蹂躙王ベヘモト――カルナック・シター・ランドグリット。魔王軍最大の兵力数を誇る地上部隊の首魁」

 その辺はこっちも前魔王であるリズベッドやコトネさん、ランシェルがいるから情報は得ることは出来るんだけども……。そう言えばまともに耳にするのは初めてかもしれない。

 常に前線でヒーコラ言ってるからな。情報収集やその総括なんかは先生たちに丸投げしてるし。

 

 地上部隊を指揮するってだけあって、魔王軍では最大の兵力を有するか。

 元の世界でも兵数は陸軍が一番多いもんね。

 

 この世界の魔王軍のメインとなる陸上部隊の最大兵力数ってのは――、


「どれくらいなんだ?」


蹂躙王ベヘモトの指揮下にある兵数は最新の情報では三百万を超えているそうよ」

 ――………………。

 ――…………。


「……ん? 三百」


「万だ。ちゃんと受け入れることね」


「…………三百万っ!? 三百万って十万の三十倍の三百万!?」


「……やはり本物の馬鹿のようね」


「やめて……。馬鹿なのは分かってるけども……三百万って現実を受け入れたくないんだよ……」


「現在はそこまで膨れあがっているそうよ」


「にしても…………多すぎ!」

 ブーステッドによる脱力で巨木に体を預けている状態だが、体を立たせることが出来るくらいのリアクションはとれた――ものの、あまりの兵数に衝撃を受けたので、直ぐさま膝から崩れて尻餅をついて座り込んでしまう……。

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