PHASE-797【ここは俺が先駆け】
「当然ながら相手は動かないでしょうな」
「てっきり先生は糧秣廠に残って、後方で指揮をするのかと思ってましたよ」
テントとか張って通信機器を設置してたし。
「現場での指揮の方が末端まで素早く伝達できますので」
戦場に立つところと立つ理由が曹操みたいな思考ですね。
とはいえ、同じ戦場にいてくれるとなれば、
「心強いかぎりです」
「お任せください。既に指示は出しております。主はお好きなように」
お好きなようにか。俺やパーティーメンバーは言わば独立部隊ってポジションだな。
――さてさて、拒馬に土塁でしっかりと守られている。
街道からの迂回となればゴツゴツとした岩肌を踏破しないといけない。
天然の要害に守られたブルホーン要塞は、飛行能力がない限りは、正面切っての突破でしかたどり着くことが出来ない。
「ゲッコーさん、ヘリとか出していいと思います?」
「却下だな」
ですよね~。
ここは先生も反対。
分かるよ。その力があればそれに頼る。
それが有れば自分たちは負けないし、無理をしなくていいという甘えに繋がる。
魂に脂肪がつくのは避けたいからね。
そもそもが王様が指揮し討伐する。圧倒的な未知の力を使用すれば、王としての正面切っての戦いというのに泥を塗る行為にもなる。
それに、圧倒的な力の存在を知れば、馬鹿息子が逃げ出す可能性もあるからね。
追走なんて面倒事にならないように、要塞内で対応したい。
とはいえ、そうなるとこっちの犠牲者も多くなる。
それでもそこは冷徹に判断しないといけないんだろう。王としての戦いのために。
王の威光と集った者達が励むことでの勝利が大事であり、勇者の不思議パワーってのにかき消されてはいけない。
だからこそ犠牲者が出たとしても冷徹に進んで行く。今の俺ならそれも出来る。糧秣廠に待避しようとした公爵軍に対して射殺の許可を下したんだからな。
勇者は豊饒の鮮血に染まった大地に立つとはよく言ったもんだよ。先生。
「当然ながら相手は動いてくれない。どうするつもりだ?」
「そんなもんは簡単だぞベル」
「ほう。で?」
「俺が一気に突き進めばいいんだろ」
犠牲者が出るのは当然。だって戦争だから。
そんな運命が訪れる人達に対して、恥ずかしい姿を勇者が見せるわけにはいかない。
「今度は俺だ!」
コクリコの突撃から公爵領に踏み入ったけども、ここは勇者が先陣切ってなんぼ。
先生もお好きなようにと言ったしな。
豊饒な鮮血の大地に立つにしても、出来るだけ少なくもしたい。なら俺が頑張るしかない!
ダイフクの横腹に足を当てれば、俺の心を汲んでくれたのか、拒馬に守られた集団など驚異ではないとばかりに一気に全速力。
白い毛並みの駿馬が麓を駆ける。
相変わらず乗り手のことを考えてくれる走り。
心だけでなく俺の体を制してくれるように走ってくれる。この安定感はまさに名馬だからこそだ。
「ええい! 何を勇者殿にだけ突撃をさせている。喊声ぃ!」
背後から伯爵の野太い声が聞こえれば、遅れて全体から声が上がる。
続くは大地を震わす突撃の
「に゛ゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
「おう。頼むぞチコ」
俺が駆ければ併走してくれる。
「私にも頼んでいいんですよ」
だったな。チコに乗ってたな。
というか器用だな。相変わらずの香港映画のようだ。
チコの上で腕を組んでの仁王立ち。
香港映画というか、かの有名な――ガイナ立ちだな。体幹が素晴らしすぎるぞコクリコ。
「さあ、緞帳はあがっとりまっせ」
「それは先ほども聞きましたよ。まあ見ていてください。あのような拒馬など無意味だというのを相手に教えてあげましょう。勇者の道はこのロードウィザードであるコクリコ・シュレンテッドが切り開いてあげますよ」
貴石が赤く輝けば、
「我が一撃は開戦の
赫々たる球体が放たれ、拒馬へ着弾。
小爆発により馬一頭が通れるほどのスペースが出来る。
といっても十重二十重からなる拒馬。一撃の魔法ではその次には対応できない。
それでは俺の為の道を切り開くことは出来ないよ。ロードウィザード様……。
啖呵を切ったのは格好良かったけど。
これがリンが使用する上位魔法の中でも最高位に位置するライトニングサーペントなら、直線上の障害物を全て消し炭にするんだろうな。
そのリンは王様の側でゆったりとしているけども。
当の本人はスケルトンライダーを使役するくらいでまだ動こうとはしない。俺のパーティーメンバーなんだから動いてほしいところ。
リンがコクリコみたいに前に出るタイプなら、相手にとっては驚異だろうな。
出来ればその驚異で相手側の戦意を奪って欲しいもんだ。
その為にもまずは俺が頑張る姿を見せないとな!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます