PHASE-798【楕円形だからね】

「さあトール。どうする?」

 背後からの声。

 肩越しに見れば、いつもの如くゲッコーさんが問いかけてくる。

 俺の次の行動が気になる様子。

 リン同様にしっかりと戦いには参加してくれないんだろうな。

 とはいえ、俺の後方を騎乗にてついてきてくれているから、戦いになれば、ちゃんと驚異を排除はしてくれるだろう。

 更に後方では伯爵を先頭に、兵やギルドメンバーも続く。

 あの勢いを止めるのは、相対する者達には難しいだろう。


 俺に続く面々を見渡してから、


「コクリコが作ってくれた穴から入り込んでやりますよ」

 ゲッコーさんの問いに返す。


「ほう。あの狭いところからか。その後はどうするのだ」

 今度はベル。


「まあ見てろって。俺にはコイツがいるからな」

 この戦いは対魔王軍ではなく、王様と公爵――馬鹿息子の戦い。

 人間同士の戦いならば、使用する力も出来る限りこの世界のものでって縛りがある方がいいだろう。

 とにかく、この戦いは王様の威光を敵味方に広める事だからな。

 なのでこの世界の力を使用させてもらう。

 

 ピリアからストレンクスンとインクリーズを使用。手綱を片手で握っても体を十分に支えられる状態にし、体を横へと寝かせる。つまりは曲芸乗り。

 地面すれすれの部分まで体を横に寝かせて、首にかけた地龍の角の一欠片にて地面を擦る。


「俺の眼前にある障害物を破壊してくれ。目印はあの隙間だ」

 コクリコのポップフレア着弾場所を指させば、


「ギュ!」

 打てば響くとばかりに地面より出現すれば、短い手足でポージング。

 愛らしくもあり、滑稽にも見える。

 でもベルの評価は高かった。


「Go! ゴロ丸」


「ギュウ!」 

 快活良く返事をすれば、ダッシュからの跳躍――からの、体を丸めて勢いよく転がる。


「おお! あのような芸当が出来るのか。素晴らしいぞゴロ丸」

 可愛いのが頑張ると、途端に声が凛としたものから黄色さを帯びたものになるベルさん。

 ゴロゴロと転がって拒馬を破壊するってのは、有りではあるだろう。

 俺としてはミスリルボディで攻撃を受け付けず、短い手足で拒馬と土塁の破壊ってのを想像してたんだけど、意思疎通が出来てるようで出来てない。

 それに、転がっての破壊はね~……。

 有りだとしても、適正が備わった場合のみ有りなんだよ。ゴロ丸。


「キュ!? キュキュ、キュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!?」


「うん……そうなるわな。しっかりとした球体なら適正だったよ」

 ゴロ丸の形状はラグビーボール。つまりは楕円形だ。

 ちょっとした凹凸で体が跳ねれば、自分が思ったような動きにはならず、真っ直ぐではなく左右に不規則になりながら進んで行く。

 ガシャゴシャと拒馬と土塁を破壊することには、一応は成功したけどね。


「素晴らしい」

 と、十分な成功ではないが、決して愛らしい者の行動を否定しないベルは絶賛するだけ。

 真っ直ぐよりも体が振られたことで、広範囲の拒馬と土塁が破壊されたと、無理矢理に高評価にもっていくスタイル。

 まあ、俺が指さしたところも一応は破壊できたから良しとしよう。

 本音はもっと奥の方も破壊して欲しかったよ。


「よくやったゴロ丸。後続がスムーズに進めるように周囲の拒馬も頼む」


「キュウ!」

 お任せとばかりに短い手を掲げれば、即座に動いてくれる。

 次は回転はなしな。


「ん?」

 眼前の障害物が少なくなったところで相手に動きがあった。

 ――――まったく!


「卑怯だぞお前等だけ!」

 黒い毛皮のマントを靡かせた背中に、俺はしっかりと発してやった。

 麓に展開していた傭兵団は陣の後方にいたようで、突如として現れたミスリルゴーレムのゴロ丸が拒馬を破壊する姿に恐れ戦いたようで、直ぐさま逃げに転向。

 糧秣廠に攻めてきた時も狙撃に恐れて直ぐに逃げ出したけども、ここでも逃げ出すか。

 周囲の征北や正規兵はそれを見て士気が低下したことだろう。

 ――と思いきや。


「射かけよ! 勇者とて今は敵だ」

 煌びやかなフルプレートを纏った者達の中央に立つ男が発せば、一糸乱れぬ動きから矢が曲射にて俺たちに――というか俺にだけ降り注いでくる。

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