PHASE-799【四男坊】

「おいでませ、シャルナさん」


「はいはい。お任せ」

 出番とばかりに馬の横腹に足を当て俺と併走すれば、広範囲のプロテクションを展開。

 降り注ぐ矢は障壁によって全てが防がれる。

 シャルナが防いでくれるその間に相手の動きを凝視。


「次。前」

 徹底して俺だけに狙いを定めている。併走するシャルナのことを相手の指揮官は目にしていない。

 勇者である俺をさっさと射殺して、こちらの士気を挫きたいんだな。


 曲射に続き、短い号令を受ければ、最前列のタワーシールドに隙間が生まれ、その隙間からクロスボウが姿を覗かせると、即座に矢を放ってくる。

 一般的な膂力の弓兵から放たれる矢とは比べものにならない威力だというのは、風を切る音で分かる。

 風を切りつつ、短い矢が俺に向かって直線を描く。

 俺の眼界は、矢による翼包囲という光景。

 高速で飛翔してくる矢もストレンクスンとビジョンの効果でしっかりと見る事が出来る。

 風を切る矢羽が回転しているのもよく見えた。


「いいぞダイフク。イグニース」

 矢の数に恐れないで真っ直ぐに進むダイフクを称賛しつつ、前面に炎の壁を展開。

 これまた防ぎ、シャルナを突き放すように速度を更に上げ、単騎で駆ける。

 だが、まだまだだな俺。炎の盾は矢を叩き落とすだけだった。

 ベルの炎だと、消し炭どころか消滅させるんだけどな。

 ま、比べるの対象が違うか。


「槍衾!」

 射撃による攻撃を悉く弾かれても落ち着き有る中央の人物の指示で、兵達が槍を展開。

 ハリネズミを彷彿させる陣形に――、


「ちょいさ!」

 快活よくダイフクから跳躍し、破壊を免れた拒馬を飛び越えて、躍りかかる勢いで空中から仕掛ける。

 当初の目的だと拒馬を全て破壊した状態でダイフクから跳躍し、前線の真ん中で指揮をしている人物の前に着地したかったけど、着地地点はその手前になりそうだな。


「なんて無茶を! そして目立ってますよ! 悪目立ちですよそれは」

 悪目立ちとか言ってるけど、コクリコの声は羨むものだった。

 羨む声を背に受けつつ、


「これまたイグニース」

 今度は体全体を守る球体状の炎を空中で展開しつつ――、着地。


「うわ!?」や「あっつ!」って声が驚きと共に聞こえてくる。


「そい!」

 驚くならその隙を利用して、残火による攻撃。


「ぎゃ!?」

 短い声と共に倒れる兵士。

 胴打ちを見舞えばもんどり打って痙攣。


「手を抜くか!」


「そう思われたくないなら俺に本気を出させるように努力しろ」

 前線中央の人物に返答。

 俺の残火はしっかりと鞘を纏った状態。

 とはいえ、打ち所が悪かったら十分に強力なんだぞ。伯爵のオリハルコン製の硬鞭よりも強力だからな。


「多勢でも卑怯とは言わないでいただきたい」


「もちろん。俺も勇者として見せる戦いをしないといけないんでね」


「包囲。突け!」

 現状はビジョンとストレンクスンによる強化だけども、ここで筋力強化のインクリーズと、物理耐性強化のタフネスを加えてからの――、


「だっしゃい!」

 形などない力任せの大振りを穂先を向けてくる者達へと見舞う。

 残火の鞘が触れるだけで槍の柄は悉くへし折られていくし、ピリアによる強化で兵達が勢いに負けて転倒していく。

 一騎当千の爽快感を得られるゲームみたいだな。

 俺の一振りに及び腰になる者達に、イグニースをスクトゥムサイズにして、追撃のシールドバッシュ。

 熱さにおののきながら俺の周囲の陣形は崩れていく。


「流石です」

 と、俺から出向かなくても向こうから来てくれた。

 正面より騎乗した征北の一人が槍の穂先を俺へと突き立てようとしたところで、


「アクセル」

 眼前から消えてやり、後方に移動。

 そこでも周囲の兵達を両方の籠手から顕現させた炎の盾で牽制。


「お見事」

 と、先ほどから褒めてくれる人物は手にした槍を俺へと投擲。

 左右に展開していたイグニースで、周囲との間合いを作っている最中の絶妙なタイミングでの投擲。

 ブオンと風を豪快に切りつつ迫ってくる。

 でも焦りは皆無。


「ウォーターカーテン」

 俺には別の防ぎ方もあるんだよね。

 穂先が俺の目の前に顕現した水の幕に触れて地面に落ちる。水の幕も相殺されたように消える。


「隙のない御仁。流石は勇者殿」


「先ほどから褒めてくれるけども、団長補佐のミランドよりも装備がいいね。あとウォーターカーテンは初歩だぞ」


「お褒めいただき光栄です。私は征北騎士団団長ヨハン・クロレス・ドルクニフといいます。初歩でも勇者殿が使えば、上位魔法以上なのでしょうね」

 ――……うん。それはない。俺が使える最高位の魔法は、最近めっきりと鳴りを潜めた大魔法のスプリームフォールだけだから。

 とまあそれはいいとして、


「ミドルネームってことは貴族?」

 この世界の王侯貴族は共通してミドルネームがあるからな。コクリコにはミドルネームがないし。

 権力者の家系はミドルネームつきなんだろう。


「我が父が子爵であります。ちなみに私は四男なので家督を継ぐのは難しいでしょう」

 別にお宅のお家事情までは興味なかったんだけどね。

 確かにラノベなんかでも、長男や次男じゃないと家督争いに食い込むのは難しかったりするもんな。

 食い込むために汚い手を使用するってのもよくある。

 四男だと基本は外に追い出されるルートだな。

 で、追い出された結果が征北の団長様という成り上がりなのかな?

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