PHASE-1153【複数に殺意をお持ちのようで……】
「で、
「そんなところかしらね。まずは人間以上の脅威となるエルフを潰したかったのだけれども」
「でもなんで一人なんだよ」
「流石に大人数で行動となると悟られる。特にこの国は外部から入り込むには隙がない。だから私が指名された。私は姿も変えることが出来るし、内部で味方を作り出すことも可能」
現魔王ショゴスにより、この地へと踏み入ったデミタスは国へと入るためにチャーム系の大魔法であるフル・ギルを使用。
最初に使用した相手は、国の外周で警邏をしていたルーシャンナルさんだったという。
普段の行動をしつつも、デミタスにとって都合の良いように動かすよう支配したそうだ。
エルフ兵に姿を変え、ルーシャンナルさんの案内を受けて霧の中を移動しての入国だったという。
後に続くだけの移動だったから、霧の効果の説明は受けなかったそうだ。
それが撤収時に襤褸として出たんだな。
入国時から先ほどまで利用されていたルーシャンナルさん。
自分が術の支配下にあり、操られているなんて理解をすることがないまま、いい様に扱われた愚者だったとデミタスは笑みを湛えて述べる。
「なるほど。だからルーシャンナルさんの行動には抜け落ちた部分があったわけだ」
「普段の生活行動は自由にさせていたけど、術による弊害は少なからず出るでしょうね」
「出てたよ」
だからククリス村を訪れた時、サルタナの母親が怪我をしていたのが分かっていても治療を施してくれなかったわけだ。
他にもダークエルフの集落に潜入した際に、ゲッコーさんが拘束したルマリアさんに対して剣の切っ先を刺す勢いで近づけてた。
デミタスにとって都合の悪い存在と判断したことで、支配下に置かれたルーシャンナルさんはああいった行動をとったんだろう。
もし俺が止めていなかったらなら、ゲッコーさんの掩護のためとか言ってルマリアさんを刺し殺していたかもしれない。
――ゴブリン達に見せた本人自身の優しさと、デミタスの支配による行動。
それが原因で違和感を残す行動をしていたわけだ。
「だがこれで分かったこともある――」
「なに?」
「いや、お前の話を聞かされながらルーシャンナルさんの事を回顧してな。思い出した事があった。そして合致した」
「何かしら?」
「俺たちはこの国に入る前、ゴブリンの集団に襲われた」
「魔王軍でもない野生のゴブリンが強者たちを相手に襲いかかるなんて、気骨があるわね。私が後で登用してあげましょう」
「うるせえよ。ゴブリン達が無理する原因になったのはお前だ。デミタス」
「なぜ私が原因になるのかしら?」
「操っていた割にはルーシャンナルさんから本当になんも聞いていないんだな」
「出来るだけ接点は作りたくないから」
本物のリンファさんが普段どういった行動を取っているかというのは熟知していない事もあり、接点を作りすぎることで他との関係性を広げすぎて襤褸を出すのはよくないとの判断。
「で、私が原因というのは?」
「お前がこの森を訪れたことで、森の生態系に問題が生じたんだろうさ」
普段ゴブリン達が生活圏としているところに、現れることのない大型モンスターが突如として現れた。
原因となったのは間違いなくデミタスだ。
大型モンスターがデミタスの強さに当てられたことで、生息地としていたテリトリーから逃げ出してしまった結果、ゴブリン達の定住地を新たな縄張りとしてしまい、それにより生活の場を急に奪われたゴブリン達は飢餓に苦しむ事になったわけだ。
「――ああ、確かにこの森を訪れた時、大型のモンスターと遭遇したわね。無益な殺生は私の好みじゃないから睨みだけで済ませれば直ぐさま遁走したわね。なるほど――私がその縄張りを奪ったと判断したわけね。ゴブリン達には悪い事をしたわね。責任を取って後で登用し、立派なレッドキャップスに育てて上げましょう」
「慈悲もあるんだな」
「私は寛大な方だと思うわよ」
「寛大な心でこのまま撤退してほしいね」
「それは無理。寛大であるからこそ恩も重んじる。私は司令に大恩がある。その仇が目の前にいて何もしないとでも?」
「ですよね……」
余裕をもっているが、明らかに怒りが混じっている刺々しさがある物言い。
デスベアラーという素晴らしい武人に恩を感じるのだから、その命を奪った存在には殺意しかないわな……。
「そもそもリンファ・ファロンドの姿をしていた時、警告はしてあげたわよね。やはりガラス玉の目では私の実力の底までは窺えなかったようね」
「ガラス玉の中でも磨りガラスだったよ……。お宅だって分かっていたらあんな強気にはなれなかったさ……」
「素直さは認めて上げましょう」
コクリコも太刀打ち出来ないガイナ立ち。
本物の強者だけに許される余裕ある佇まいだ。
「それにしてもそれだけの力を持っているのに直接はやらないんだな」
王様やエリス。氏族たちにも近づけている。ポルパロングに至っては洗脳までされているというのに、なぜに自ら手を下さないのか。
「私達の種族はそもそも争いを好まない。戦うとしても直接、手を下すことを良しとしない考えを持つ。内へと入り込み徐々に衰退させ崩壊させることに重きを置く。例え聖祚の命であってもそのやり方だけは変えない」
「まるで妲己や玉藻前だな」
「ダッキ? タマモノマエ? 人物名であっているのかしら?」
「ああ。お宅みたいに尻尾の多い美人さんだよ。その正体は白面金毛九尾の狐って大妖怪だけどな」
「へえ、その二人の名は知らないけど、九尾は我ら種族が目指すところ」
「それ以上、強くなって何をしたいんだよ」
「お前を殺す事――かしらね~」
「今の実力でも十分だろうがよ……」
「その通りね。お前は主目標の間に転がる路傍の石」
おうおう、なんか俺を殺すって発言をした時よりも強い発言と目力だな。
お願いだからその殺意はそいつにだけ向けてほしいよ……。
石ころには目を向けないで通り過ぎてほしいね……。
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