PHASE-516【多頭の怪物】
「そら、もう一発いこうか」
ならば!
「立て続けにスプリームフォール」
ゲッコーさんが次弾の準備をする間、岩龍に間隙を突かせないために、大瀑布をお見舞いしてやる。
これによりダメージプラス拘束が可能だ。
あれ、これ攻略パターンなんじゃないの?
なんて思い込んではいけないんだよな。戦いの最中では――――。
一瞬の油断が命にかかわる相手となると、様々な事に考慮しなければならない。
大瀑布により動きを拘束され、RPG-7による二発目の弾頭が腹部に直撃。
水煙と爆煙で視界が悪くなる中で、俺はしっかりと目にする。
蛇腹状の尻尾が伸びていき、先端が地中に潜っていくのを。
「地面からなにか仕掛けてくるぞ」
告げれば、内容通りの事になる。
床に走る蜘蛛の巣のような亀裂から、突如として多頭の蛇が現れる。
「幻獣ヒドラみたい」
と、シャルナの例えは言い得て妙だった。
サイズは普通の蛇くらいだけど。
岩龍の岩の尻尾が胴体として存在し、尻尾の先端が枝分かれしており、頭に角のある蛇の姿となっている。
岩に土砂、蔦に木からなる無数の頭がキョロキョロと辺りを窺う。
まるで自分たちがどの獲物を狙えばいいのかと品定めをしているようだった。
――――無数の頭は、各自の攻撃対象が決まったのか、一斉に鎌首を上げる。
その姿は、岩や土砂、植物で出来ているだけの存在のはずなのに、一つ一つの頭が意志を宿しているように見えた。
動作に何とも言えない畏怖の感情を抱いてしまう。
「来るぞ」
ターゲットにされたベルがレイピアで斬れば、斬られたところから新たに頭が再生。
「面倒だぞ」
と、渋い表情にもなる。
ベルの足元を見れば、斬った部分も動く。
それは野狐のデミタスが使用したマッドバインドに似た効果があるようで、執拗に追従してくる。
縛られるベル。エロい光景も見たいという浮ついた思いもあるが、
「ブレイズ」
んなことを心底から本気で思える余裕はない。
こっちにだってそれが迫って来ているわけだし。
斬って炎で覆ってやれば、斬られた頭部は活動しないまま、土砂や植物に変わる。
本当に神話に出て来るヒドラみたいな倒し方だ。
「なるほど」
ベルが得心してレイピアに炎を纏わせて斬ると、そこで灰燼。
対応が分かれば、胴体部分になっている尻尾の先端も仕留めたいところだが、斬られるのはゴメンとばかりに、先端は地中に隠れるように潜る。
「きりがありませんよ」
俺の残火と、ベルの剣技と炎だけが効果的。
他はそうは行かないようだ。
特にコクリコやランシェルは中々に難しいところ。
コクリコは魔法よりも打撃攻撃に特化しているけども、相手が土や石からなる存在だと効果を発揮しない。
拳に粉砕力でもあれば別なんだろうが。
ファイヤーボールで対応もしているが、俺やベルの炎は効果があっても、コクリコの魔法では効果が見られない。
結果、フロートで床上を滑るように移動しつつ、何処までも追いかけてくる多頭を回避する事に徹していた。
「トール。打開策を!」
「スプリームフォール」
「それ以外に!」
言ってくれるじゃないかまな板。
これでも十分に効果があるんだぞ。
本体の動きは押しとどめているんだからな。
シャルナも多頭の攻撃を回避しつつ、ショートソードで首を斬り落とし、本体にはカスケードで掩護してくれる。でも、本体にはともかく、尻尾から生えた多頭の蛇には決定打にいたらない。
俺たちがヒドラもどきを相手にしている中でも、ゲッコーさんがRPG-7 で効果的な破壊を行ってくれている。
後ろ足に腹部。
続けて頭部に撃ち込み、岩のスタチューを的確に破壊してくれている。
だが、肝心の本体には届かない。
腹部には穴が空くが、そこはまだ岩でしかない。
地龍の姿はまだ見えないでいる。
直撃も困るんだけども、本体が見えてこないとなると、こちらは不安に駆られる。
「分厚いな。引き籠もりめ! いつまで外に出ない気でいる!」
NPO法人の引き籠もり支援の方に、協力してもらいたいくらいだね。
「ぁあ……あぁぁ……」
突如、後方からランシェルの弱々しくも妙に艶っぽい声が上がる。
――…………いや、それは違う……。
なんでお前がバインドに絡みつかれているんだよ。
「ぁあぁぁ……」
切ない声を上げるんじゃない! 頬を赤くしない! エロいんですよ。
メイド服がエロく乱れすぎだ。太ももに絡まって、スカートがめくれそうになってますよ。
男なのにエロすぎだよ!
「せい!」
これ以上ランシェルを見ていると、目覚めてはいけないものに目覚めそうなので、即座に救い出す。
お礼を述べる息は荒く、表情が紅潮しているのが本当にエロかったので、俺は即座に明後日の方向である脅威に目を向けることに傾注する。
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