PHASE-517【相撲とるらしいです】

 それにしても鬱陶しいヒドラもどきだ。

 尻尾先端を狙うのではなく、元から絶てばいいんだろうが、尻尾の根元周辺には、地龍の力が追加で発動。

 周囲に岩による壁が築かれる。

 更に壁は、岩龍全体を囲うように、徐々に広がっていく。

 岩石だけでなく、樹木も絡んだハイブリッドタイプだ。

 

 落成式は阻止してやるとばかりに、スプリームフォールを発動。

 破壊は出来たが、完全ではなかった。

 岩石に絡んでいた骨組みの役割をしていた樹木は残っていた。 

 大瀑布にも対応しはじめるだけの壁を作り始めている。

 

 ゲッコーさんが骨組み部分に弾頭を見舞うけども、破壊された骨組みは、樹木同士が絡まり合い、直ぐに修復。

 その間にも壁の範囲が広がっていく。

 非常に不味い。このままいけば地龍は岩龍だけでなく、家屋を建築してそこにまで引き籠もりそうだ。

 火龍に比べたら派手じゃないけども、地道で粘り強い。時間がかかればかかるほど、こちらが不利になっていくタイプの相手だ。


 内なる地龍の抵抗力がショゴスに対して低いとなれば、こちらに対する攻撃も更に苛烈さを増していくだろう。

 まだまだ発動していない攻撃もあると考えないといけない。

 如何にしてそれらを封じてから、あそこから引きずり出すか。


『ゴォォォォォォ』

 水圧に対して少しでも対抗するためか、まだ完全に修復出来ていない右後ろ足も使って、立ち上がろうとしている。


「伏せ!」

 巨体での反撃はさせないとばかりに、スプリームフォールを更に唱える。

 地割れが発生しているが、地割れ部分に水を蓄えることが出来なくなったのか、室内の水かさが増してくる。

 普通に床に立っていれば、臑部分まで浸かっていただろう。

 リズベッドのフロートの恩恵があるから、濡れずにすんでいるけど。

 とにかく動きを止めておいて、一気呵成に攻撃を加えていって、外装を破壊して引っ張り出すしかない。

 その為には、


「鬱陶しいぞ!」

 遊撃を担っているヒドラもどきをどうにかしないといけない。


「シャルナ。なんかないのか」

 攻撃魔法で打開策をと思ってみても、返ってくるのは頭を左右に振るだけ。

 都合のいい魔法があれば苦労はしないよな。

 次第に地龍の土木建設の進捗速度が上がっていく。

 見れば下半身を隠すまでの壁が出来ている。

 水攻さえ防げれば脅威なしとばかりに、破損した右後ろ足の修復に力を注いでいるのか、みるみる再生――ではなく、造形されていく。


「チッ」

 と、舌打ち。

 俺の大魔法に耐えきった。


「再び立ち上がったか」

 と、ポツリと漏らすゲッコーさん。

 一応とばかりにRPG-7を使用。

 弾頭は岩龍の側面から隆起してきた分厚い壁により防がれる。

 

『ガァァァァァァァァァァァア』

 水攻と爆発の脅威を退けたとばかりに、歓喜の雄叫びを上げる。

 連動するように、地中を通った尻尾の先端から伸びる多頭が、鳴き声を出す事はないけども、天井を向いて鳴いているような仕草をみせる。

 右後ろ足が修復すれば、損耗した腹部や頭部の修復速度が上がりはじめる。


「どうします」

 多頭の一つに蹴りを入れつつ、妙案を欲するコクリコ。


「こうなったら!」

 ここは広い。でもって今のところ火龍のようなレーザーみたいな攻撃はない。

 的が大きくなるから賭けにもなるが。

 

「怪獣退治には戦車しかない」


「それはいいな。強いのを頼む」


「ならばゲッコーさん。お願いします」


「可能な限りはやってやる」

 ティーガー1以上の重戦車となると、俺のストレージデータにはない。

 だが、ゲッコーさんの登場する作品には色々とある。

 この戦いでは、現代の主力戦車に登場してもらおうじゃないか。


「出てこいT-90A」

 言えば室内に大きな輝きが発生。

 光の中から現れるのは――、現代ロシアの魂。


「お前は本当になんでもありだな」


「でも操縦は出来ないので、ゲッコーさんに任せます」

 俺が操作できるのは、ゲーム内で操作する物だけ。

 ハンヴィーの運転も出来ないのに、リアル戦車の操縦なんか出来るわけがない。


88㎜アハトアハトを凌駕する、125㎜滑腔砲の威力を地龍に見せつけてください! でも本体には当てないようにしましょうね」

 まあ、どこに本体がいるかは分からないけど。


『そりゃ無理だ』

 やっぱりね。

 否定がT-90Aの方から返ってくる。 


『そもそも砲手がいない。コイツは三人で運用するからな』

 ――……ああ、そういう意味での無理って事ね。

 なるほどね。だよね。普通はそうだよね。

 ミズーリだって本来は二千人以上で運用するからね。そう考えると、プレイギア一つでこなせている俺は凄いね。

 と、自画自賛している場合じゃない。

 撃てないなら、意味が無い代物のような気がする。

 やはり、ティーガーを出すか。

 とりあえず、


「えっと、どう使うんです?」

 ゲッコーさんが搭乗している以上、何かしらの案があるのだろうと質問をする。


『そりゃ簡単だ。相撲をとるんだよ』

 ――…………脳筋のような答えが返ってきた。

 T-90Aは、黒い排気煙を勢いよく一度はき出すと、無限軌道が地割れの床を削り、水しぶきを上げながら、岩龍に向かって一直線にパンツァー・フォー。

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