PHASE-518【操縦桿を握ると変わるようです】
『重量は四十六トンと、ティーガー1に比べれば十トンほど軽いが、速度は六十キロ以上は出る』
地割れによって床が酷いことになっているが、この程度なら問題ないと、ゲッコーさんは一気に最高速度まで持っていく。
全長が十メートル弱あるT-90A。四十六トンが六十キロを超える速度でぶつかれば……。
『ゴオォォォォォォォォッ』
突如として現れた鉄の巨体に恐れを抱いたのか、岩龍が一歩後方に下がる。
砲塔左右にある赤色に輝くライトが悪魔的な恐怖を醸し出しているのが、恐れの原因だろうな。
照らしているだけなんだろうが、岩龍からしたら睨まれているような心証なのだろう。
下がって踏ん張るような体勢になりながら、鱗を象る岩の表面を撃ち出す。
散弾のような礫。
礫といっても一つ一つが人間の拳大のサイズ。砲撃による散弾みたいなものだ。
もちろんリズベッドのおかげで俺たちに脅威は無いけども、
『そんなもんでコイツの装甲をやれるかよ!』
なんか喋り方が変わったような気がするんだけども……。
異様にテンションが高い。
礫をガインガインと弾きながら、砲身を岩龍に向けたまま突っ込んでいく。
本来は砲身を守るために旋回させるんだろうけど、一人で運用しているからね、しかたないね。
ま、壊れても代わりを召喚すればいいだけだし。
ロシアの第三世代主力戦車を使い捨てあつかい出来るってのが、俺の召喚能力の強味でもある。
『行くぜ!』
いや本当に、貴男は誰?
テンション上がった伝説の兵士が、砲身を衝角に見立ててのラムアタックを仕掛ける。
岩龍も相手の動きを抑えようと、地面から槍衾みたいな攻撃を行ったり、壁を作ったりもしたが、即席のそれらではロシアの魂を止める事も出来ず、
『ypaaaaaaaaaa!!』
テンションMAXな伝説の兵士は、ロシア兵が憑依したのか、渋い低音による咆哮を気勢として、更に加速。
岩龍は、自身を守るために築いた、岩石と樹木からなる壁の後ろへと移動する。
ハイブリッドの壁は、傾斜からなるデザインだった――――。
T-90Aにとってそれは、ジャンプ台と言ってもいいだろう。
――――四十六トンが、宙を舞う。
これぞロシアのお家芸。
「と、跳んだぞ……。戦車が跳んだ……」
「ベルはおかしな事を言うな」
「私は間違っていないだろう」
「いや、間違っている。ロシア産の戦車は普通に跳ぶよ」
「ロシアという国は知らないが、戦車は跳ばない」
「跳ばない戦車はただの戦車だ。ロシアの戦車はただの戦車じゃないって事だ。ジャンプしながら砲弾を発射するから」
「いや、当たらないだろう」
何とも当たり前なことを言いますねベルさん。
正鵠を射てますよ。
ですがね――、
「当たらなくてもいいの。跳べばいいの。それがロシアの戦車なの!」
お家芸、伝統芸は守っていかねばならんのですよ。
俺とベルが言葉を交わしている間に、岩龍へと躍りかかるT-90Aが激しく目標へと衝突する。
見事なもので、岩龍の首部分が砲身によって貫かれている。
ラムアタックが成功。
砲身も曲がってしまっているけども、お構いなしに無限軌道が唸りをあげて岩龍を押していく。
全長は岩龍の方が大きいけども、力負けしているのか、必死に後ろ足で踏ん張り、前足で戦車を受け止めようとするも、ずりずりと後退させられている。
――――そして、
「寄り切りだ」
押された岩龍の巨躯が地響きと共に倒れ、ゲッコーさんは追撃とばかりに、地中にぶっ刺しいている尻尾の根元部分に対し、
『おいたが過ぎるぜ』
と、きざったらしく台詞の発し、無限軌道でガリガリと岩の尻尾を削り落としていき――――、見事に断ち切った。
途端に尻尾の先端から生えていた多頭が力ない動きになる、連動するように先端部分も鈍い。
「ここだな」
瞬時に先端へと距離を詰めたベルがレイピアにて斬獲。
多頭にとっての本体が斬られれば、マッドバインドみたいな効果を発揮することなく、電源が落ちたように沈黙。
「凄いですよ。新たなる鋼鉄の象の力は!」
岩龍の攻撃が止んだことで、ようやく皆が声を漏らすようになり、その最たるものがコクリコの発言だった。
凄くて当然。
俺のゲームデータ内にある戦車で限定すれば、T-90は最強クラスだからな。
皆大好きティーガー1であったとしても相手にならない性能だ。
時代が違うから仕方ないけど。
「よし、今のうちに!」
ベルが仕掛けるぞと俺に指示。
動きが止まったところに強力なのを叩き込めと言うことだろう。
『俺ごとやれぇ!』
なんか妙に気合いが入りまくっているゲッコーさん。自らの言動に酔いしれているのじゃないだろうか?
伝説の兵士だからそんな中二臭い行動は……、今までの思考から鑑みれば、そういった行動をしてもおかしくはないか……。
T-90Aに乗っているから問題ないと判断しての発言なんだろう。
ゲッコーさんの臭い台詞を信じて――、
「スプリームフォール」
「カスケード!」
俺に続くシャルナの声は、倒れた岩龍を目にしているからなのか、力強い語気だった。
履帯を唸らせて岩龍のマウントをとったタイミングで大瀑布が降り注ぐ。
『ガァァァァァァァァァァァ』
岩の頭部から大音声が響く。
明らかに大ダメージ。
四十トンを超える戦車の下敷きになり、かつ無限軌道でガリガリと削られ、岩石の体に大きな亀裂が走り、そこから大瀑布が流れ込んでくれば、地龍を守る岩の鎧がみるみると崩れ落ちていく。
――…………これ本当にゲッコーさんは大丈夫なのだろうか?
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