PHASE-36【バレンシアの火祭りもビックリ】
――――この奇跡の御業に、壁上にいる兵士だけでなく、逃げていた住人からも感嘆の吐息が漏れている。
なるほど、宗教ってこうやって権力を得ていったんだな。
口には出さないけどさ。敬虔な信者なんかを敵に回すと怖いからな。
「――――ふん、ふん!」
言われるがままに続ければ、爆発におびえるオークと、今まで目にしたことのない、子供くらいの小柄な身長で、肌の色が緑色。尖った耳に鷲鼻が特徴的な亜人が、破城槌の内部から転げ出てきた。
多分だけどゴブリンだな。破城槌で突入して、そこから飛び出して襲いかかるって作戦だったんだろう。
慌てふためき後ろに下がる敵と違って、壁上に立つ兵士たちは、俺の奇跡の御業という名のマッチポンプに興奮して、崇めるように跪いている。
視線が恥ずかしいけども、俺が刀を振れば、振られた方向に目が向くのが救いである。
怖いもの見たさなのか、兵士だけでなく、住人も壁上へと次々に上がってくると、爆発を目にして興奮の声が上がり、次第にその声に厚みが増していく。それだけ人が多くなってきている証拠だ。
「よい時宜かな」
先生が口角を上げつつ呟き、
「これぞ奇跡。そして、その奇跡の御業の使い手である主に、付き従う両名の実力も知るといい!」
先生の発言にベルは舌打ち。
帝国軍中佐は、未だに覚悟がない、俺なんかの従者ってポジションにご立腹のようだ……。
先生の「芝居ですから」という発言にて、自身に言い聞かせているように頷いていた。
それを目にする俺の心は寂しい……。まあ、俺がヘタレなのが悪いんだけど……。
「ここに住まう、力なき人々のためだ」
対戦車ロケット弾である、M72 LAWをいつの間にか構えるゲッコーさん。
発射時のバックブラストが危険だからと、ゲッコーさんは厳しい声にて、後方には絶対に立つなと周囲にお達し。
投石機へと狙いを定めて、発射。
自力で飛翔し――――、直撃。
爆発によって、投石機は容易く破壊された。
今までの爆発は、刀を振れば途端に爆発。爆発に繋がる軌跡が目に見えない恐怖だったが、ロケット弾が撃たれ、火を吹く巨大な矢が当たれば、大きな爆発を起こすという、視覚的な恐怖が植え付けられた。
オークたちの混乱は今まで以上のものになっている。
現状、俺とゲッコーさんの行動だけで、敵が大混乱に陥っている事に、人々が久しく忘れていたであろう勝利の二文字が、先生の発言どおりに、頭の中に刻み込まれているようで、力が漲ってきているのか、強く握った拳が興奮で振るえていた。
「――行くか」
駄目出しとばかりに、ベルが壁上から飛び降りる。
十五メートルを超えるところから飛び降りれば、普通は無事では済まないが、そこはチートキャラである。受け身なんて取ることもなく、両足で綺麗に着地。どんな骨格をしているのだろうか?
一人、悠々と佇み、混乱している二千の軍勢に向かってゆっくりと足を進める。
単身で迫ってくる赤髪の美女。その姿に流石の亜人たちも何かあるとふんで、収拾のつかない状況下の中でも、距離をとって矢を放つ。
矢はベルだけでなく、こちらにも向かってきたが、壁上までは届かず、その前の堀へと落ちていった。
先生はそれも計算に入れて爆発を起こさせ、敵を後方に下がらせていたようだ。
「これなら住人にも被害はでないか」
壁上に脅威はないと、矢を躱しつつ、ベルは自らの双眸で確かめれば、眼前の敵へと炯眼を向け、紅蓮の炎を体に纏わせる。
ベルへと迫る矢は、砦の時のように、炎に触れれば炭へと変わっていった。
お返しとばかりの上段の構えから、一振り。
ベルが立つ位置より、炎が伸びていけば、直線上に立つ亜人たちが燃え尽きていく。
断末魔さえ上がらない、瞬時に消滅するから、慈悲の一撃でもある。
ベルに続いてゲッコーさんが、M72 LAWから二発目を撃ち出す。
撃っては発射機をその場に捨てて、再び現出させ、更に発射。
発射機の形状は、野球部の同級生が背負っていたバットケースに似ている。
筒後部を引き延ばし、肩に担いで狙いを定め、撃っていく。
ベルの炎に、ゲッコーさんの容赦のないロケット弾。
軽便なことから、壁上を走り回り、投石機、破城槌を容赦なく破壊していく。
一帯は炎と爆発が共演し、爆炎となって、紅蓮に染め上げていく。
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