PHASE-35【マッチポンプ】

「何でもいいんですよ。適当で。剣舞なんてどうです? 主が腰に帯びている刀を使って舞ってください」

 無茶振りがすぎますよ先生。

 小中の時は、正月に稽古始めを観客の前でやった事もあるけども。――そんなのでいいのだろうか?


「いいから早くやれ」


「いだ!」

 くっそ、俺に対してずっと当たりがきついな。

 俺が召喚したのに、忠誠心ゼロのロケットおっぱいめ! 俺の尻は、ベルに蹴られるために存在するわけじゃないんだぞ。俺にはご褒美じゃないんだよ!

 こうなりゃやけくそだ。

 一番目立つ場所に移動すれば、先生がゲッコーさんとなにやら話し合いを始めた。読唇術がないのが悔やまれる。


「では、主――――、張り切ってどうぞ」

 話し合いがすんだのか、バラエティ番組の司会みたく、先生は言う。

 鞘から刀を抜いて、諸手で持てば、竹刀とは違うずっしりとした重み。それを感じながら、上段の構えをとる。


「敵も味方も刮目されよ。神の使いである我が主をそのまなこにて! これより奇跡の御業をご覧に入れよう。味方は喜色満面。敵は戦々恐々となるべし」

 大音声である。

 男前が、よく通る声で全体に伝えておられる。

 攻める準備をしていた魔王軍。

 逃げていた住人。

 一斉に手足を止めて、俺へと視線が注がれた。スゲー恥ずかしい……。


「どうした? 上段のままで固まっているぞ。思いっ切り振り下ろせ」


「ゲッコー殿の言うとおり。さ、主。今こそ人々の心を掴む時」

 無茶振りばかり!

 ええい! ままよ!!

 振り下ろし、半歩ひいて今度は横薙ぎ。

 踊りっぽくってことだから、振るだけでなく、横回転もいれてみる。

 自分でも分かるくらいにぎこちない足取りだ。


「ふ」

 くそ! ベルめ!! 俺のことを鼻で笑ったな。俺だってな、対ベル用の恥ずかしい攻撃とか出来るんだからな。

 いずれそれを発動してやる。


「いいですね。ではまず、向かって右に設置されている霹靂車に向かって、刀を大きく振ってください。出来れば、快活のよい気迫と共に」


「――えい!!」

 言われるままに、声を発しつつ刀を振り下ろす。

 白刃が陽射しを反射する。

 振り下ろすのに合わせて、ゲッコーさんの方向から、カチリと音がし、チラリと見れば、手にはハンドグリッパーに似た形状の物を持っていた。

 握ったのに合わせて、ドカーンと、俺が振り下ろした方向で爆発が生じる。

 小屋サイズなら、容易く呑み込みそうな火球が発生した。

 もちろんその爆発で、投石機は足場から激しく吹き飛び、周囲にいたオークたちも、火の玉の中に呑み込まれた。

 よくよく考えれば、あの場所は、十キロほどのC-4を設置した場所だ。

 先生は、敵があそこに攻城兵器を設置すると言っていたが、はたして正にだな。

 ――――ああ! なるほど。轍の跡は、敵が以前に設置した攻城兵器の跡だったわけか、だから今回もそこに設置するって分かってたんだな。

 突如として起こった爆発に、オークたちは混乱する。


「人の言葉を理解するなら聞くがいい。これぞ天より授けられた御業よ!」

 いたずらじみた口角の上げ方。

 先生は楽しんでいるようだ。更にとばかりに小声にて、「次は正面の衝車に」というので、


「ふん!」

 破城槌に向かって刀を振り下ろせば、合わせるようにゲッコーさんがカチリと起爆装置を握る。

 破城槌は底部で爆発を起こして、全壊までとはいかないが、丸太を加工した槌部分は、衝撃で地に転げ落ちた。

 あそこには一キロくらいのC-4が仕掛けられてたんだな。


「どうですかな。一度目は偶然とも考えたでしょう。だが二度続けば必然。必然ゆえに、主が刀を振るえば、この力は続く」

 爆発に加えて、口巧者となったノリノリの先生に、オークたちは更に混乱に陥る。


「次はどこを爆破する?」

 先生に負けず劣らずに楽しんでいるゲッコーさん。その姿はテレビ局の特殊効果のスタッフみたいである。

 自分たちで仕掛けたC-4を爆発させ、さも奇跡の御業として皆に見せる。

 こういうのをマッチポンプって言うんだろうな……。

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