PHASE-49【前夜】
「さあ、明日には敵が攻めてくるでしょう。皆さん急場で集ってはいますが、今までの経験を活かしてくださいよ」
この先生の発言に驚きを禁じえないのは仕方が無いだろう。
攻めてくるって言い切ったからね。なんで分かるんだ? とも思っているようだけど、間者を捕らえる人物なのだから、情報もすでに得ているのだと冒険者たちは見解したようで、無用にツッコミを入れることもなく、
「やってやろうぜ! 俺たちの力を勇者とその一行に見せてやろう」
先ほど戻したばかりのカイルが、早速、鼓舞している。
それに呼応する面々。暑苦しいが、頼れる声だ。
王都の兵士では、こういう声を聞けなかったから。
でも――――、
「我々も負けてられん」
と、一人の兵士が発せば、賛同する他の兵士たち。
今までと違って活力が漲っている。
「お互いに触発されるといい。カイル」
「は!」
おう、まるでベルの忠実な部下みたいになってるな……。
「今までは有り余る膂力に頼って生き抜いてきたようだが、刀剣の使い方ではトールの技量に劣る」
え!? そうなの!
「膂力を更に活かせるように、振りの鍛錬を共に行え」
「分かりました!」
てなわけで――――、
夕暮れまでキエェェェェェェ! って叫び声が王都に響き渡った。
明日には攻めてくるって事で、俺も兵士も冒険者も、気合いを入れて振りに振った。
大軍ともなれば、不安に押しつぶされそうになる。
それを振り払うように、振って振って振りまくる。
「……痛い……」
手の皮がベロベロだ……。
こういうのを目にすると、チート能力にしとけばよかったと、思ってしまう弱い俺がいる。
「見せてみろ」
ふぇ!? 白魚のような細くて綺麗なベルの手が、俺の手を掴んでくれる。
ドキドキが止まらない童貞がここにいる。
傷薬を塗ってくれた。
「戦う者の手になってきたな」
口元に笑みを湛えてくれる。
チート能力にしとけばよかったと思ったな――――。あれは嘘だ。
最高の美人様に治療してもらえるイベントは、チートボディでは発生しないからね!
「ふむふむ。急場しのぎですが、現状での人材を適した所へと配置できました」
小屋の中で、いつもの四人で明日のことで話し合い。
相変わらずな固形レーション。
ゲーム内には、ヒートパックに入れて暖める、ビーフシチューハンバーグとご飯ってのもあるんだけどな……。それ出してくれないかな。
匂いで他の方々に気付かれると気まずいから、出してくれないんだろうな。
「――――頼りになる音だ」
もぐもぐと甘ったるいレーションを食べながら、小屋の中まで響いてくる冒険者たちのいびきは雷の如し。
小屋の隣に持参したテントを設営して、そこで寝食。
「明日の戦いを終えたら、ここらにギルドに加入している者たちの宿場兼、クエストの依頼と受注を担う受付も含めた、建物建設を開始しましょう」
もう、横文字はすらすらだ。
「一階が受付と、食事処に酒場ですね」
「酒場ですか? ふむ、いいですな。酒を飲むことで疲れを癒やしてもらいましょう。流石は主です」
ギルドといえば、酒場というテンプレイメージを発言しただけなんだけどな。
いまはまだ、小屋とテントの集合体だが、ギルドが出来たのかな?
明日は戦いだし、バタバタとしているからまだはっきりとはしていないが、俺たちのギルドは今日より始まるんだろう。
ギルド名もまだ決まっていないけど。
「荀彧殿。出来れば浴場もお願いしたい」
「そうです。それも第一に考えてください」
ベルを擁護してやる。
「お任せください。いつまでも水浴びだけでは辛いでしょうから」
「え!? 水浴び!!」
してるの! どこで!! そこはギルド名なんかより遙かに重要だよ!
「おい!」
はい、すいません……。
「というか、ベルは王城で風呂とか借りてもいいんだぞ」
「前線からは離れられん」
格好いい中佐様だ。王城から外へと繋がる門までの距離は結構あるからな。だが入浴機会が少なくて、元気が無いのも事実。うむ、乙女である。
「ジロジロと見るな」
「だい!」
蹴りが飛んでくるのだけはマジかんべんな……。全然、乙女じゃないから…………。
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