王都防衛戦

PHASE-50【大軍迫る】

 日も昇らない時間帯。

 緊張していても、そこそこは眠れた。でもって、目も冴えてる。

 先生と一緒に馬で王都を移動しながら会話を交わす。

 ベルも随伴してくれる。


「流民の中にも土木の経験者がおりましたので、彼等に権限を与えて、ギルド建設や城壁の修復を任せましょう」


「流民に権限を?」

 先生のプランに、ベルは違和感を覚えたようだ。


「ええ、才能があるなら、その才能を使わないと無駄になります。こんな時に階級や位など邪魔なだけです。出来る人間にやらせる」

 帝国といえば階級制度。だから先生の考え方に些かだけど驚いている。

 冒険者ならばともかく、平民を重用するという考え方は、ベルの中では考慮の外だったようだ。

 贔屓せずに登用する先生らしい考え方だ。


「階級に縛られず、励めばそれに見合った報酬を受けられる。このやり方を全体に浸透させます」


「民あっての国家!」

 て、格好つけて在り来たりな発言で俺が続く。


「その通りです! 私は素晴らしい主に仕えています」

 先生が喜んでくれたので良しとしよう。

 得心がいったのか、首肯しているベル。

 ポイントが上がってくれれば嬉しいところ――――。


「伝令!」

 朝日が顔を出し始めると、王都の兵と冒険者たちは、西門と南門の壁上や門前で待機。

 そんな中、軽装で、見るからにシーフのような冒険者が、階段を素早く上がってきた。

 でもって先生の前で片膝をついている。

 スタンドアローンなイメージである冒険者を上手い具合に統制している。


「来ましたか」


「はい! およそ十キロ。数は一万」

 十キロなら見えてもいいんだけどな。一万っていう大軍勢だし。

 地平線に目をこらしても見えないのは、目の前にある木が少ない岩山が邪魔をしているからだろう。

 岩山の向こう側では敵がこちらに向かって進軍中のようだ。


「今回は素晴らしいですな」


「ですね」

 壁上に王都内を見下ろせば、冒険者と兵士が募り、利器を持ち戦う姿勢を見せている。

 さらにその後方では住人の方々が、後方支援とばかりに、矢筒を背負い、槍や刀剣を手に持ち、損耗した前線部隊に供給する補給役を買って出ている。

 俺の奇跡の御業というマッチポンプが原因で、皆が鼓舞されている。

 それに、俺が練習していた示現流もどきの振り下ろしも良かったようだ。

 勇者が行う事だから、きっと凄いことなんだと広まり、今日まで、兵士も冒険者もそれを真似ていて、特に弱腰になっていた兵士たちには、示現流もどきは前線に立つ自信へと繋がったみたいである。

 目に宿る力も出会った時とは大違いだからな。

 といっても、合流した冒険者を入れても、兵力は四百に届くかどうかだ。

 非戦闘員でここに参加してくれている住人の方々を含めれば、六百にはなる。

 とはいえ、一万を相手にするには圧倒的に不利な状況だ。


「ここでも絶対的な勝利を手にし、大陸の人々を奮い立たせましょう」

 負けられない戦いだと、先生が俺の背中をポンと叩く。

 俺も覚悟は決めている。

 やるだけだ。じゃないと、皆が苦しむことになる。


「ゲッコーさん」


「なんだ?」


「この戦いが終わったら、銃の扱いを教えてください」


「いいぞ。でも、日本ではそういうのはフラグを立てたって言うんだろ」


「サブカルチャーにも詳しいですね。大丈夫ですよ。クラッシャーではあっても、一級建築士ではないので」


「その辺は分からないな」

 これから戦いが始まるというのに、何とも余裕の笑みを見せてくれるよ。焦りを忘れさせてくれる頼りになる笑みだ。

 ――――う! なんだ?

 岩山の方向からキラキラとこちらに光が向けられる。


「発光信号だ」

 おう。ゲッコーさんてば、セラピストだけでなく、そんな芸当まで冒険者に仕込んでいたんだな。

 分かりやすいのだけを教えたそうだ。


「敵の現在の距離は一里ほど。約四キロといったところか」

 手鏡を利用した発光信号からは、そう伝えているようだ。

 最初の伝令から半分の距離をきったか。

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