PHASE-51【三爪痕】

「ところで十キロってのはどうやって分かったんだろう」

 双眼鏡とかが有るわけでもないだろうに。

 遠眼鏡はあるのかな?


「千里眼に秀でた民族の出自が冒険者におりまして、彼の者を偵察に起用しています。なにやら、マナなる存在を扱い、目に力を宿すことで遠方を見る事が可能とか」


「マナ――」

 それっぽい単語きたね。

 ゲームなんかでも聞くぞ。


「話によると、この世界には空気とともに、マナなる存在もあり、その力を利用することで、体を強化したり、ベル殿のように炎を出せたりする、魔法という妖術の類いが使用出来るとか」

 いいよ! 俺もそれを使いたいんですよ先生。


「どうすれば使えるんです?」


「まずはマナの存在を感知できるようになればよいとか、その辺は感覚らしいです。使える者から師事を受けるのが、一番の近道だとの事ですよ」


「魔法を使える冒険者はいまここには?」


「いないようです。体を強化するのはそこまで難しくないそうですが、魔法は相当の修練を積み重ねないといけないとか」

 そうか……。そうだよな。この世界に来て、敵の中でも魔法を使える奴を見たことないもんな。

 いや、もしかしたらいたのかもしれない。でも、ベルの炎で、殆どが一瞬で消し炭だったからな。

 相手も活躍を見せることなく終わっていったわけだ……。


「なんだ?」


「いや。なんでもないよ」

 ただ、ベルの活躍で、敵が少し可哀想になったって思っただけさ。


「――――さあ、来ましたよ」

 おお、会話してたらあっというまだな。

 俺でも分かるぞ。ここまで響いてくる太鼓や角笛の音が。

 激しいね。音に驚いて、木々の少ない山からでも、鳥たちが飛び立っている。


「伝令!」

 発光信号でなく、口答か。

 先ほどの伝令役の人物とは違う、同じような恰好の人が俺達の前で膝を付く。

 先生は伝令役に、結構な人数をさいてるようだな。情報は力だから当然ではあるが。

 これなら通信機をゲッコーさんに出してもらえばよかったな。

 伝令さんが一呼吸置くと、


「敵兵はゴブリンを中心とした編制。その他にトロールにオーク。ヒッポグリフの騎兵も見えます」


「ヒッポグリフ?」


「ヒッポグリフとは、グリフォンと牝馬の間に生まれた幻獣らしいですよ」

 その事をなぜに先生の口から聞くことになるのだろうか……。

 俺の知らないところで、先生の異世界知識が、俺と比べて遙か高みに至っておられる。


「グリフォンの子って事は、空を飛ぶって事か」


「そのようです。これは空に対しても警戒しなければならない戦いになります」

 王都兵からは弓兵。冒険者なら、ハンター職が活躍だな。

 ま、こっちには銃がありますけども。


「ですが、それ以上に敵のバナーが問題です」

 バナー、旗か。


「ふむふむ。敵は相当の手練れと言うことですかな?」


「はい。軍勢の中心には三爪痕トライスカーズのバナー」

 トライスカーズ? なんだ? いかにもな名前だが。


「主。三爪痕トライスカーズの事は調べております」

 仕事が早いですね。

 バナーの紋章は、爪痕が三角形を描いているデザインだそうだ。


「バナーの色は?」


「緑です」

 先生の質問に答える伝令さん。


「バナーの色が緑。蹂躙王ベヘモト麾下の部隊でしょう」

 幹部っぽいのが来たな。強敵との戦いになりそうだな。


「主、三爪痕トライスカーズは名の通り、三つの勢力からなっている魔王軍の精鋭です。今ここへと攻めてくるのは、蹂躙王ベヘモトの手の者。残り二つは翼幻王ジズ溟海王レヴィアタンの二王が指揮する部隊です。旗の色は、翼幻王ジズが白。溟海王レヴィアタンが青だそうです」

 詳しい説明痛み入ります。

 今回の敵である蹂躙王ベヘモトの部隊は、三勢力の中で、最も兵数を有するそうで、地上戦に特化した者たちにより編制されているそうだ。

 どこの世界も陸軍が一番多いんだな。

 でもって、この世界の知識をすでに頭に叩き込んでいる先生は、やっぱり凄い方だと尊敬するね。

 ――――音だけでなく、濛々とした土煙を上げての侵攻が、眼界に入り込んできた。

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