PHASE-48【ベル対カイル】

「悪いな。女と戦う趣味はねえ」

 おお、それっぽい発言だ。

 笑いながらの発言だけども、ベルは笑ってない。


「男尊女卑か?」

 と、淡々と返答している。


「いやいや、出来る事ならベッドの中でお相手を」

 荒くれ冒険者然たる台詞だな。ベルは無表情に加えて、冷ややかな視線に変わる。


「なるほど、女を軽く見ている。やはり男尊女卑だ」

 体だけの存在と思われる内容となると、お怒りだ。

 エメラルドグリーンの瞳で射抜けば、修羅場を潜ってきたと言っていたカイルも後ずさる。

 戦いの経験が豊富ゆえに、ベルの実力を肌で感じることが出来たんだろう。


「どうした、口だけか? 勇者に挑むつもりなのだろう。ならばまずは、私が試してやらないとな」

 うん、やはりベルは、俺の事を立ててくれようとしているようだ。

 好きになりそうだ。――――すでに好きなんだけども。

 圧を受けてか、カイルが更に下がろうとする、しかしこれ以上の後退は恥とばかりに踏みとどまると、


「後悔するなよ!」

 そう言いつつ、継いで、


「懐に飛び込んでやる!」

 二メートルはある大男が、172の女性の懐に飛び込むってのも変な話だ。

 それとも下心からの発言なんだろうか? 94㎝のロケットおっぱいにダイブしたいのかな? 俺もしたいぞ!

 迫るカイルに対して、木剣を構えることなく佇むベル。


「炎は使うなよ」

 もしかしたらってこともあるから釘を刺せば、


「使うような存在か?」

 だな。

 余裕の微笑だ。

 木剣を片手に力任せに突っ込んでくるカイルに対して、斜に一歩足を進め、突っ込みの軌道からずれると、ベルは長い足でローキック。

 スパン! と、小気味のいい音がすれば、


「だい!?」

 痛がるカイルの動きが止まる。


「懐に飛び込んでやると言ってる時点で、動きが予測しやすくていいな」

 と、鼻で笑うベルに対して、悔しそうに歯を軋らせるカイルは、


「怪我しても知らねえぞ! 美人さん」

 力任せに木剣を振り下ろす。

 豪快な風切り音が俺の耳朶にしっかりと届く。当たれば怪我どころじゃない。


「無駄が多い」

 ベルはゆるりと一歩、足を前へと出し、振り下ろされる木剣に手を沿わせて滑らせると、そのままカイルが握る柄の部分まで移動させ、手首を掴み軽くひねれば――――、大男が一回転。


「きょん!?」

 受け身もとれずに、変な声を出しながら、背中から地面に叩き付けられた。

 自身の体重も相当なものだろうから、叩き付けられた時の衝撃は凄かったようで、苦しそうにうめき声を上げながら、顔面から血の気が引いていた。

 ――――で……、


「オロロロロロロ……」

 勢いよく口から戻していた……。

 もらいゲロしたくないので、そこは見ないでおく。


「はあ、はあ……。まいった、全く相手にならん……」

 四つん這い姿で素直に負けを認めるカイル。

 あんたも弱くはないんだろうけど、相手が規格外だから。


「力任せだがいい振りではあった。が、間合いに無駄が多い。振り上げるなら私の間合いの外でやれ」


「おっす……」


「だが、素直に負けを認める潔さは好感が持てる。今後はギルドで励め」


「押忍!」

 おう、この厳しさの中に優しさのある美人中佐よ。そらゲーム内の兵達にも人気あるわけだな。


「よろしくお願いします」

 立ち上がって、真っ先に俺に対して頭を下げてきたカイル。

 暑苦しい体育会系だが、こういうタイプは仲間を見捨てることをしない、頼りになる人物だろう。


「力も申し分ないし、真っ直ぐな性格のようだ。メンバーとしては信頼出来る」

 ゲッコーさんも俺と同じ意見のようだ。

 真っ直ぐな性格と豪快さ。他の面子のまとめ役になるだろうとも付け加えていた。

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