PHASE-166【切り払い】

「お~い、ベル」

 可愛いものを見て喜んでいるところ申し訳ないが。


「う、ううん」

 わざとらしい咳払いからキリッとした表情になり、


「我々はここから立ち去る」

 声を整えてから、ケーニッヒス・ティーガーより距離をとれば、


「行こう」

 と、一言。

 

 俺たちはベルの歩んだ道を歩いて、山の王から距離をとり、離れた――――。


「トールも似たような事を言っていましたが、向こうを立ち去らせるのではなく、私たちが立ち去るんですね」


「当然だろう。元々この山は、あの生き物たちの住処だったのだろう。人が踏み入ったのはその後だ。先達には経緯をはらうべきだ」


「格好いいです」

 ベルの発言が琴線に触れたのか、メモを取り出し、発言を記入している。

 歩きながら器用に羽根ペンでメモってる。

 いずれは自分が使用するための語録にするんだろう。


 ベルの後ろを付いていくコクリコの姿は、やはり妹だ。

 栄養を姉に全部うばわれた妹。

 口には出さないけど。

 

 にしても、先ほどのベルのケーニッヒス・ティーガーへの対応。

 ビーストテイマーの素養がある。

 炎が出せない間は、強いモンスターを使ってみてはどうだろうか。





「硫黄の匂いがしてきたな」


「ですね、村が近いのかもしれません」


「油断は出来ないな」

 ハンドガンからアサルトライフルに変更するゲッコーさん。


 村の人間が凶暴化していたら戦いになるからな。

 もしそうならば、容赦はしないといった思いを体現しているのだろうか、そのMASADAアサルトライフルは……。


 休憩を挟みつつだが、まさが五時間も山を登るとは思いもよらなんだ……。

 でも、息切れをしてない俺は凄いと、自分で思える。


「村が問題なかったら何がしたいです?」


「だから、それはお前の国で言うところのフラグが立つってやつじゃないか?」


「いいんですよ、へし折ってやれば」


「そうか、へし折れればいいが。――そうだな。温泉に入って汗を流して、冷たいのを飲みたいな。ビールを出してくれ」


「ミズーリを山の上には出せないです」


「そうか……。くすねとけばよかったな」


「先生に頼んで酒造りもしないとですね」


「最高だな。シュメール人だってビールを飲んでたんだ。それよりもこの世界は発展はしているからな。技術さえあれば生産も可能だ」

 酒の事になると嬉々としますね……。


 ――ん?

 もうすぐ目的地といったところで、綺麗な風切り音が耳朶に届く。

 矢だな。

 

 矢だと分かっていてこの落ち着きよう。

 俺、育ってるね!

 ま、脅威じゃ無いからな。


「何者だ」

 だって、ベルがレイピアで容易く切り払うから。


【踏み込み足りん!】てな具合に、簡単に切り払ってくれるよ。

 される方はマジでストレスですけども。ソフトリセット乱発。その後、コントローラーを叩き付けるまでがお約束だ。

 ――……まあ、それはいいとして、


 ヒュン、ヒュンと、音が俺の方にばかり迫ってくる……。


「明らかに俺が標的だよね」


「これが、フラグなんじゃないのか」


「いやいやゲッコーさん。この程度なら、余裕でへし折ってやりますよ」

 ベルがね。


「だと思うなら、少しは自分で防いでみるんだな」

 ベルさん。このフラグを俺に代わってへし折ってください。

 俺にはまだ切り払いなんて技量はないです。だから守ってほしいな。


「気持ちの悪い目で見てくるな」

 ――……矢が刺さった方がましなくらいに、突き刺さってくる言葉だよ……。

 

 まあ、なんだかんだ言って、守ってくれてるのはありがたいけども。

 しかし、間断なく矢が飛んでくるな。


「大勢いるのか?」


「そんな事はない。確かに素晴らしい射手ではある。正確でいて次が早い。だが、同時に二本は飛んでこない。一人の仕業だ」


「本当に大したもんだ」

 戦闘特化の二人は悠長に褒めてるけども、俺が狙われてるんだよね……。

 前者のベルは守ってくれてるから有りがたいけど、後者のゲッコーさんにいたっては、腕組みして傍観ですよ。

 強者の余裕ですわ。


「だが、流石にくどいな」

 矢を切り払いつつも、足元にある石を足で蹴り上げて手に収めると、ノーモーションでの投擲。

 手首のスナップだけでの投擲を披露するベル。


 手首だけなのに、もの凄い勢いで森の中を飛翔し、木の上部分に向かって直線を描くように飛んでいく。

 メジャーなら、デビューしたその年に、サイ・ヤング賞をゲット出来るよ。


「きゃ」

 っと、甲高い声だよ。


「女だな」

 思って発せば、木の上から茂みに落ちる影。

 

 落下地点に急いで移動すれば――、


「すげー!」

 まっさきに俺が大音声。

 ベルの投擲に対するものではない。

 

 一度は目にしたが、やはり子供じゃなくて、綺麗どころとなれば、テンションも自然と上がるもんだ。

 

 弓が卓抜で、ファンタジー世界のルックス代表といっても過言ではない存在が倒れている。

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