PHASE-167【美人エルフ】
「笹の葉みたいな耳。あんたエルフだな」
問うても、落下した痛みが続いているのか、背中を擦っているだけで返答は無い。
――その間にも全体を見やる。
色素が薄い金髪で、櫛通りにストレスを感じる事が無いであろうサラサラとした長髪。
肌の色も色素が薄い白。
軽装で動きやすそうな布地に、金属製の胸当て。
近くには木製の弓が落ちている。矢筒にはまだ余力もあるし、油断は出来ない。
腰には刃渡りが四十センチくらいの、中脇差サイズを佩剣。
柄の作りはシンプルだ。
草木を乾燥させた物を柄糸として使用しているみたいだな。
やはりエルフ。大体は、自然の物を利用して、装備を調えているようだ。
しっかし美人だな~。まあ、俺はベルが勝ってると思いますけども。
とくに胸回りが。
胸のサイズが胸当てと変わらないくらいなら、Dはありそうですな。
良き形とは思うが、俺はロケット派であり、ベル推しだから。
「不愉快だ」
「でぃっしゅ!」
なんで推してるベルが俺を蹴るの……。
俺は相手の情報を外見から得ようとしてただけなのに、ベルと比べるとそこを感知するんですかね。
エスパーですか!
「まったく! 俺ばっかり狙いやがって!」
とりあえず、エルフに八つ当たりする。男として駄目な俺。
「なぜに俺を狙いやがる!」
継いで、同じことを聞く。ドスを利かせて。
あれだろうか、勇者だからだろうか?
まあ、可能性としてはそれが一番高いよな。
六花のマントは、王に代わって権力を振るえるからな。それ故に狙われるデメリットがある。
「私は――――」
ようやく口を開くか。
「――敵をたたく時は弱いのから狙うから」
――…………くぅぅぅぅぅぅぅぅぅ…………。
「なんだ震えているが? どうした」
ベル。これはな武者震いであって、怒りとか悔しさとか、悲しさなんかじゃ決してないから……。
「弱そうなのから狙うとは卑怯な! ですが、判断力は秀逸ですね」
よしコクリコ! オレ、オマエ、ユルサナイ。
俺が弱いとか! 弱いとか!!
「ノービスの分際で!」
ここでマレンティの言葉を拝借して、コクリコを侮辱。
だって、俺は最上位である大魔法が使えるし。
見れば悔しそうに俺を睨んでくるよ。いや~愉快愉快。
少しは溜飲が下がった。
さて、一番許せないエルフを再度、見やる。
俺を弱いとか言いやがって! レベルだって火龍を助け出して、37になってんだぞ。
37だぞ! RPGなら、ラスボスの右腕くらいなら倒してるレベルだよ!
幹部だって二人も俺が倒してるのに!
俺は弱くない! コクリコを除く二人が、ラスボスより強そうな存在だからそう見えるの!
「ちょっとばかり、仕置きが必要だな」
拳の骨を鳴らして威圧しようかと思ったら、鳴ることはなく、ぐにぐにしただけで恥ずかしかった……。
「さあ! 性悪エルフめ、捕らえてくれる!」
捕らえるふりして、ついでに抱きついてやる!
エルフの柔肌はいかがなものでしょうかね~。
エロいことを考えていた矢先に……、
「きゅん!?」
下腹部に、ずんがずんがと鈍痛が襲ってくる……。
体に寒さを覚える……。
え、マジで何なの……。この異世界の女の子たちは、男の股間に拳を見舞わないといけない習慣や風習でもあるのでしょうか…………。
「やっぱり弱いじゃない。隙だらけでこっちに接近してくるとか」
馬鹿にした語気で立ち上がれば――、まって! 刃物はよくない。
中脇差くらいの刃物が鞘から抜かれる。
珍しい黒色の両刃からなる剣身が、なんとも禍々しいじゃないか。
振り下ろされるところで、キンッと音が一つ。
「ひ!?」
黒く輝く刃が、うずくまる俺の横に突き刺さる。
「弱かろうが、私たちの仲間だ」
ベル様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
レイピア一閃で、エルフからの攻撃を防いでくれる。
「お前も隙だらけだぞ! なんだあの詰め寄りかたは! 情けない!!」
ベル様…………。
久しぶりの情けない発言に、泣きそうになる……。
エルフは再度反撃の動きを見せるが、時すでに遅い。
手にしていた黒い刃物が叩き落とされれば、それが奪われる。
エルフは背後から迫る気配を感じ取ることが出来なかったようで、ゲッコーさんに動きを封じられる。
「これは鉱物か? 業物だな。抵抗するな。大人しくするなら後で返してやる」
低音の鋭い声と共に、奪った鉱物と思われる刃物をエルフの喉元に当てるゲッコーさん。
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